実践ゼミ#10:ぐっすり眠る技術 ─ 血糖を守る「寝る前2時間」の過ごし方
📗 実践ゼミ #10
初めての方 → 実践ゼミ#1「食後10分ウォーク」
前回 → 実践ゼミ#9「血圧セルフケア」
⚠️ぜんぶ代謝のせい#4で、「睡眠不足は血糖を上げる」メカニズムを見ました。たった一晩の寝不足でもインスリン感受性が低下し、コルチゾールが上がり、食欲ホルモンが暴走する。
「仕組みはわかった。で、具体的にどうすれば眠れるの?」
今回はその答えです。2024年に厚生労働省が策定した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」のエビデンスをベースに、糖尿病の方に特化した睡眠改善の実践テクニックをまとめます。
まず知っておきたい「量」と「質」
睡眠は「何時間寝たか(量)」と「ぐっすり感があるか(質)」の両方が大事です。
量の目安(成人): 6時間以上が最低ライン。ただしこれは「6時間で十分」という意味ではありません。人によって必要な睡眠時間は異なり、7〜8時間が理想的な方が多い。
質の目安: 「朝起きたとき、休まった感じがする」かどうか。これを**「睡眠休養感」**と呼びます。睡眠ガイド2023では、この睡眠休養感の向上が重要目標として掲げられました。
糖尿病の方は、寝不足や質の低下が翌日の血糖値に直結します。#4で見たように、睡眠が崩れると「コルチゾール↑、インスリン感受性↓、食欲↑」の三重苦に陥ります。
睡眠は「代謝の治療」の一部です。
「寝る前2時間」が勝負
睡眠の質は、寝る前の2時間の過ごし方でほぼ決まります。逆に言えば、この2時間を整えるだけで、劇的に変わる方がいます。
ルール① 夕食は寝る2〜3時間前に終わらせる
就寝直前の夜食は、体内時計を後退させ、翌朝の睡眠休養感を低下させることが報告されています。
さらに糖尿病の方にとっては、就寝直前の食事は夜間の血糖値を跳ね上げる原因になります。寝る前の血糖値が高いと、喉の渇きや頻尿で何度も目が覚める。これが睡眠の質を壊す。
「寝る2〜3時間前には食事を終わらせる」。まずはこれだけ意識してみてください。
仕事で帰りが遅い方は、帰宅前に軽く食べて、帰宅後は最小限にする「分割食」も選択肢です。
ルール② カフェインは14時まで
#8のコーヒーの回でも触れましたが 、カフェインの半減期は約5〜6時間。午後3時のコーヒーは、夜9時にまだ半分残っている。
寝つきが悪い方は、まず14時以降のカフェインをやめることから始めてください。コーヒーだけでなく、紅茶、緑茶、エナジードリンク、栄養ドリンクにもカフェインは含まれています。
午後にコーヒーが飲みたいときは、#8で紹介したデカフェに切り替える。クロロゲン酸の恩恵は残りつつ、睡眠を守れます。
ルール③ 寝酒はしない
「寝る前の一杯で寝つきが良くなる」——これは半分正しくて、半分間違いです。
アルコールは確かに入眠を促進します。でも、睡眠の後半の質を著しく悪化させることがわかっています。飲酒量が増えるほど中途覚醒(夜中に目が覚める)が増加。
しかも糖尿病の方にとって、就寝前のアルコールは夜間低血糖のリスクも上げます。特にSU薬やインスリンを使っている方は要注意。
「寝るための酒」は、睡眠を壊す酒です。
ルール④ スマホは寝室に持ち込まない
スマホの光(ブルーライト)は、メラトニン(睡眠ホルモン)の分泌を抑制します。
でも、光の問題よりもっと大きいのは「脳の覚醒」です。SNS、ニュース、メッセージの通知——スマホは脳を「まだ活動しなきゃ」モードにしてしまう。
理想は「寝室にスマホを持ち込まない」。目覚まし時計として使っている方は、安い目覚まし時計を1つ買ってください。1,000円の投資で睡眠の質が変わるかもしれません。
*ちなみに私は持ち込んでいます…(毎日当院の訪問診療のOnCallなので…なので当院患者さんたちご安心ください!笑)
ルール⑤ 入浴は寝る1〜2時間前に
入浴には寝つきを良くする効果があります。ただし、タイミングが重要。
体温が上がった後に下がるタイミングで眠気が来る。だから就寝1〜2時間前にぬるめのお湯(38〜40℃)に15〜20分浸かるのがベスト。
就寝直前の熱いお風呂は、逆に体温が下がらず寝つきを妨げます。
日中にできること
睡眠は「寝る前」だけで決まるわけではありません。日中の過ごし方も大きく影響します。
朝食を食べる
朝食は体内時計のリセットに寄与します。朝食を抜くと体内時計が後退し、夜の寝つきが悪くなることが報告されています。
「朝日を浴びて、朝食を食べる」。これが体内時計をリセットする最もシンプルな方法です。
日中に体を動かす
日中の身体活動が多い人ほど、夜の睡眠の質が高いことが複数の研究で示されています。
激しい運動は不要です。実践ゼミ#1で紹介した「食後10分ウォーク」も、睡眠の質を上げる効果があります。
ただし、就寝直前の激しい運動は逆効果。体温が上がって寝つきが悪くなります。運動は就寝3時間前までに。
昼寝は「パワーナップ」で
午後の眠気がつらい方は、15〜20分の昼寝が有効です。これ以上長くなると、夜の睡眠に響きます。
特に高齢の方は、30分以上の昼寝は夜間の睡眠を壊しやすいので注意してください。
糖尿病の方が特に気をつけること
夜間頻尿
高血糖が続くと、喉が渇いて水分を多く摂り、夜中にトイレに起きる回数が増えます。夜間頻尿は睡眠の質を著しく下げます。
対策の基本は血糖コントロールの改善。そして意外ですが、#9で紹介した減塩も有効です。日中に摂取した食塩の過剰分は睡眠中に排泄されるため、夜間の排尿回数が増えるからです。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)
糖尿病の方は、睡眠時無呼吸症候群の合併率が高いことが知られています。
「いびきがうるさいと言われる」「十分寝ているのに日中眠い」「朝起きたとき頭が痛い」——これらの症状がある方は、主治医に相談してください。
SASが未治療だと、夜間の血糖コントロールが悪化し、高血圧も悪化します。治療(CPAP療法など)で睡眠の質が改善すると、血糖も血圧も良くなるケースがあります。
寝る前の血糖値
インスリンやSU薬を使っている方は、寝る前の血糖値にも注意が必要です。
一般的な目安として、就寝前血糖値は100〜140mg/dL程度が推奨範囲ですが、個々の状態によって異なります。低すぎると夜間低血糖のリスク、高すぎると喉の渇き・頻尿のリスク。主治医と相談して、自分の目標値を決めてください。
1週間チャレンジ──まずはここから
全部を一度にやる必要はありません。まずは1週間、以下の3つだけ試してみてください。
Day 1〜3: 夕食を寝る2時間前までに終わらせる
Day 4〜5: 14時以降のカフェインをやめる(デカフェに切り替え)
Day 6〜7: 寝室にスマホを持ち込まない(目覚まし時計を買う)
1週間後、「朝の目覚めが違う」と感じたら、それは睡眠の質が上がった証拠です。 そしてその変化は、血糖値にも反映されているはずです。


まとめ
睡眠は「代謝の治療」の一部。寝不足はコルチゾール↑、インスリン感受性↓、食欲↑の三重苦
寝る前2時間が勝負: 夕食は2〜3時間前に、カフェインは14時まで、寝酒はしない、スマホは寝室に置かない、入浴は1〜2時間前
日中にできること: 朝食で体内時計をリセット、日中に体を動かす、昼寝は20分まで
糖尿病の方の特有注意点: 夜間頻尿には減塩が有効、SASの疑いがあれば主治医に相談、寝る前の血糖値は100〜140を目安に
全部やらなくていい。まず「夕食の時間」「カフェイン」「スマホ」の3つから
今夜から、寝る前にスマホを枕元から1m離してみてください。それだけで、明日の朝が少し変わるかもしれません。
参考情報
・厚生労働省『健康づくりのための睡眠ガイド2023』(2024年2月策定)
📗 次の実践ゼミ → #11 「外食・コンビニの血糖に優しい選び方」(準備中)
📘 睡眠と血糖の仕組みを学びたい方 → ⚠️ぜんぶ代謝のせい#4「睡眠と代謝」
📗 コーヒーの飲み方も復習 → ⚠️ぜんぶ代謝のせい#8「コーヒーと血糖」
🏫 全コンテンツ → この学校の歩き方
🧑⚕️ 日々の血糖ネタ → X(@medinoto)
※この記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の治療については主治医にご相談ください。
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