POMR連載⑤:日本におけるPOMRと多疾患併存:フリーアクセスとハイコンテクスト文化のもとで指導医は何ができるか
導入
第④部は、多疾患併存がプロブレムリストに突きつける3つの課題——記載の崩壊、情報過負荷、記録負担——を分析し、オランダ・英国・北欧の解決策がいずれもゲートキーパー制度を前提としていることを示した。本稿では、この前提が成立しない日本において、フリーアクセス制とハイコンテクスト文化という2つの独自因子が④の課題をどのように修飾するかを分析し、その上で、臨床研修病院の内科系指導医・PDが現場レベルで取りうる具体的な教育・指導の方策を提案する。
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フリーアクセスが④の3つの課題を増幅する構造
プロブレムリストの「ホーム」が存在しない
第④部で分析した「プライマリケア医がプロブレムリストへの登録の82.3%を担う」[1] という構造は、英国・オランダ・北欧ではGP登録制度によって制度的に担保されている。日本にはこの構造がない。厚生労働省の「かかりつけ医についての調査」等では、かかりつけ医(ここでは「健康に関することを何でも相談でき、必要なときは専門の医療機関を紹介してくれる身近な医師」という定義)を持つ国民の割合は調査によって44〜55%程度と報告されており [2,3]、英国やオランダの全国民GP登録制度とは根本的に異なる。約110,000の医療機関(病院約8,200、一般診療所約104,000)[4] と40社以上の電子カルテベンダーが並立する中、施設間の電子的データ交換率は2020年時点でわずか0.4%であった [5]。この数値はCLINSの展開により今後改善が見込まれるが、現時点ではなお深刻な相互運用性の課題が残っている。
多疾患併存の高齢患者が3施設以上を定常的に受診する場合——75〜89歳の大規模コホート研究(Ando et al., 2025)[6] では定期受診施設が5施設以上の患者も珍しくない——、各医療機関が個別に保持するプロブレムリストは断片化される。循環器内科のカルテには心房細動と高血圧が、整形外科には変形性膝関節症が、泌尿器科には前立腺肥大が記載されるが、これらを統合したプロブレムリストはどこにも存在しない。
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半ば常識となっている問題志向型医療記録(POMR)について、その米国における起源と日本を含む他国への普及過程、多疾患併存時代における課題に…
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