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Unbeaten Tracks in Japan (9):【寄り道】Exercises in the YOKOHAMA dialect (改訂増補版)本編まとめ

今日は『Unbeaten Tracks in Japan』と『完訳 日本奥地紀行』から少し寄り道して、横浜居留地で使われていたとされる横浜ピジン英語(横浜方言)について書いてみたいと思います。

今回初めて有料記事としてみましたが、内容の大半は無料で公開し、翻訳付きでまとめたデータのみを有料としています。


『Unbeaten Tracks in Japan』と『完訳 日本奥地紀行』は現在第7報を読んでいます。
これからアップする第6報では、いよいよ通訳兼従者の伊藤(Ito)が登場します。

以前の記事にも書いたとおり、『ふしぎの国のバード』ではバードが旅をする際の通訳を探す場面で、「チョバチョバ」、「マロマロ」、「ジキジキ」といった謎の言葉や、「アリマス」を連発する通訳志願者に絶句するバードの様子が描かれています。

第6報の記事で詳しく書くかもしれませんが、志願者が話す英語のほとんどが使い物にならなかったということが、『Unbeaten Tracks in Japan』にも書かれています。

ピジン英語と横浜方言

居留地などで使われていた英語は、「ピジン英語(Pidgin English)」と呼ばれていたもので、日本人と外国の商人の間の実務の中で、意思疎通を図るために使われた、簡易的な接触言語といった位置づけの言語です。

その中でも横浜の居留地で使われていたピジン英語は横浜方言(Yokohama dialect)と呼ばれていたようです。

実務で使われる言語だったので、正式な資料がほとんど残されていないそうですが、まとまった資料として、1879年に発行された「Exercises in the YOKOHAMA dialect」なる冊子の改訂増補版(revised and enlarged edition)を今でも読むことができます。

初版が1873年に発行されたことが、新聞に掲載された書評より確認できているそうですが、現存する初版は今のところ見つかっていないそうです。
1874年に発行された再版は横浜開港資料館に1冊あるそうです。資料館のアーカイブで確認したところ同名の書籍が5冊ありましたが、どれも発行年が1879年になっていて中身に違いがあるのかどうかは確認できませんでした。おまけに閉架書庫にあるため、閲覧するには事前の申請が必要になります(場合によっては事後も?)。
一般利用者が閲覧目的のみで訪問してよいのか、少し迷っているところです。

そして、現存する第3版以降と思われる1879年の改訂増補版については、インターネットアーカイブで実物を見ることができます。

いろいろな本に横浜のピジン英語の記載が登場したりはするようですが、まとまったものとして残っているものはほとんどないらしく、かなり貴重な冊子と言えそうです。

はじめは、冗談なのか本気なのかイマイチつかめず読み始めたのですが、いろいろ調べていくうちに、いたって真面目な冊子で(冗談めかした記述がところどころに見られるものの)、日本人に限らず多くの学者がこの本を分析し、論文を書いていました。ネットで簡単に見つかる論文をいくつか読んでみると面白くて、いろいろと読み進めるにつれわかってきたこともあり、本当に楽しかったです。

まるで謎解きのような内容

全36ページのこの冊子ですが、注目したいのは、16ページ目から。第一課から第五課までの対訳に加え、翻訳の練習問題や「『わからない』と『わかりません』の違い」、「南京風の日本語」についての記載があります。
どれも面白かったです。
(「『わからない』と『わかりません』の違い」については少し首をかしげたくなるのですが、中国人の『わかりません』は言葉通りではなく含みのあるものだったのかなと思います。)

この冊子は著者がイギリス人(多分)なので、日本語が一切書かれていません。(16ページを開くとわかる通り、左に英語が、右にそれを意味する横浜ピジン英語が書かれています。)

が!面白いのはその表記。
まだヘボン式ローマ字が広まっていない時期だったこともあってか、音声にちかい単語を当てて表現しています。

おまえ⇒Oh myとか、Ohio⇒おはようとか、Die job⇒だいじょうぶと言った感じです。

ピジン英語特有の、マレー語などの外国語由来の単語があって、知らないとわからないものもあるのですが、頭から順に解読していくと、とても楽しかったです。

何が面白いって、ピジン英語がいかに「簡易的な」言語だったかがよくわかることです。
初めの方は単語だけなのでそれほど難しくないのですが、課が進むごとに内容が複雑になっていきます。が、それに対する横浜ピジン英語についてがとてもシンプルなことに驚きます(もちろん、内容はざっくり)。

これだけの少ない語彙でたくさんの内容を表していることにまず驚くのですが、それに貢献しているのが「Arimasu」「Arimasen」「Piggy」といった多義語の存在。(Piggy は「取り除く(to remove)」などの意味で使われ、「ペケ(×)」に相当する表現とされています。私はpick itの略かと思ってたのですが、全然違っていました。)

ものすごい長い文章を「Arimasen」の一言でバッサリきっていることに笑ってしまったり、もはや誰のことをいっているのかわからないような謎な文があったりして、第四課、第五課あたりになるとかなり笑えます。

面白がって最初は笑っていたのですが、例文はともかくとして、笑い話でもなんでもなく、当時英語が全く分からない日本人が精一杯のカタコトの英語で外国の商人とやり取りをしようと頑張っていた証拠でもあるのですよね。その意思疎通のためのツールだったのだと思うと、笑いごとではありませんね。

中国人の話し言葉を表す役割語『~ある』や『~よろしい』の出処

「役割語」というのをご存じでしょうか?

語尾に
「~じゃ」とあれば高齢の方だと、
「~だわ」とあれば女性だと、
「~ある」とか「~よろしい」とあれば中国人だと、
特定の役割やイメージを表せるような言葉のことで、金水敏さんが「役割語」についてたくさんの書籍を書かれています。

最近読んだ、『コレモ日本語アルカ? 異人のことばが生まれるとき』(金水敏、岩波現代文庫)から抜粋します。

役割語とは、特定の話し方(語彙、語法、言い回し、声質、抑揚等)と人物像(性別、年齢、世代、職業・階層、人種・国籍、場面等)とが連想関係として結びつけられ、かつ社会的にその知識が共有されているときの、その話し方のことを指す。

『コレモ日本語アルカ? 異人のことばが生まれるとき』(金水敏、岩波現代文庫)より抜粋

ここでも今回の「Exercises in the YOKOHAMA dialect」が取り上げられているのですが、中国人を表す役割語である「~ある」「~よろしい」といったいわゆる「アルヨ言葉」の出どころがこの横浜ピジン英語だといっています。

というのも、「『わからない』と『わかりません』の違い」、「南京風の日本語」あたりを読むと、「わからない」を「わからないある」といったり、「拝借できるあるか」といったという記載があるのです。

他にも「Exercises in the YOKOHAMA dialect」についていろいろ書かれているので、ご興味のある方はぜひ。

Exercises in the YOKOHAMA dialect (改訂増補版)の本編(翻訳付き一覧&メモ&参考資料まとめ)

あまりに楽しくて、まず第一課から最後まで読んだ後、いろいろな論文を探して読んでみました。どの論文もいろいろな角度からアプローチして論じていてとても興味深いものでした。
ただ、ほぼすべての論文が、この原書「Revised and Enlarged Edition of Exercises in the YOKOHAMA dialect」の記載は各自読んだもの、というか、別に参照しているものとして書かれていて、各記載の引用の仕方が音声でまとめたもの、意味でまとめたものなど、論文によってまちまちでした。

せっかくなので、論文ごとに書かれた分類されたバラバラの情報としてではなく、原書通りに記載をまとめて閲覧できるように、Wordにまとめ、必要なものは日本語訳をつけてみました。

サンプル

サンプルはこちらです。

最初に記載があるとおり、翻訳箇所は水色の文字、原文にない内容のコラムはグレーで網掛けしてあります。
一番右の「和訳&補足欄」には、私のつぶやきのようなものも入っていますが、論文から入手したものについては、どの論文からの内容かわかるようにしてあります。

また、全体のWord版では、目次もざっくりですがナビゲーションウィンドウから見られるようになっています。

この本編に当たる部分(第一課~五課とと「『わからない』と『わかりません』の違い」、「南京風の日本語」についても入れてありますが、第一課(原文のp16)以前の内容についての翻訳は入っていません。

最初にまず、何も余計な知識はない状態で、この原文を第1課から順番に読んでいきました。理解するのに苦労する箇所もありましたが、いくつかを除いて解読できました(赤字が論文を読んで初めてわかったもの)

第五課のあとに日本語から横浜ピジン英語へ、横浜ピジン英語から日本語へ・・という練習問題があるのですが、これについては原書にも解答がついていません。
解答を付けてみようか迷ったのですが、かなり苦労しそうなので、空欄としています。その苦労を感じてみるのも楽しいのではないかと思います。

有料にするか無料にするか、とても悩んだのですが、参考文献には論文も入ってるし英訳ではなく和訳とはいえ、翻訳もはいっているので、ひとまず有料とさせていただきます。
また、有料とするにあたり価格も悩んだのですが、翻訳が入っているものの、英語がわかる人なら自力で読めるものなので、ハンドルネームの「はなこ」より、875円とすることにしました。

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