老舗 〈雨女⑬〉
よく来られます。
ホットスナックをよく買われます。
外で誰かとお話をして、ゴミを捨てた後、寂しそうに帰って行かれます。
何か難しいことを小声で喋ってらっしゃるようで、一度聞き耳を立てたことがあります。
なかなか面白そうな内容なので、彼の来店は楽しみの一つです。
最近は、他のお客様とも交流があるようで、といっても河童の方ですが。
河童の方もよく来られます。
最近は野菜を扱うコンビニも多いようですが、当店では河童の方々が来られるようになってからはずっと、きゅうりを置いております。コンビニになる前は商店でしたし、その前かもずっとここで商いをやっておりますから。
河童の方はその頃からのお得意様です。
最近、漬物も買われていきます。
おしぼりを多めにご所望なされます。
ライターをお持ちになっていないので、こちらから貸し出すようにしています。うっかりお持ち帰りになっても、必ずお返しいただけております。
砂が入ってることもありますが、きっとどこかにお隠しになっているんでしょうね。河の中には持って入れませんからね。
火打石も最近では見かけなくなりました。
雨の女性は店内にはお入りになりません。
濡らしてしまうから、とご遠慮なさってのことです。
一度だけ店内でお買い物をされていきましたが、そのあと子供が雨に滑って転んでしまい。御用の時は店先から私を呼ぶようになりました。
本当はゆっくり店内をご覧になって欲しいのですが、お誘いしても頑なにご遠慮なさるので、お見かけしたらこちらから伺うことにしています。
一度遠くからこちらを見ておられましたので、早速伺ったところ、ダイエット中だから見ていただけだと恥ずかしそうになさっていました。少し僭越に過ぎたと、反省いたしました。
バリアフリーやユニバーサルデザインと言われて随分経ちますが、結局は私たちがどこまでお役に立てるかに尽きます。やりすぎも良くありません。
先日は三人とも仲良くお話しなさっていたので、驚きました。
あの日は河童の方が珍しく踊っておられるのが見えて、その後すぐ雨が降り出しました。
河童の雨乞いは、今の河童の方の先々代以来でしょうか。本当に久しぶりに見たと思いましたので、つい男性の方に話しかけてしまいました。
いやはや、先走ってものを言うものではないですね。
あれは雨の女性が張り切って運動をなさっていたんですね。息を切らしておられましたし、お痩せになったと喜んでおられました。
天気予報のアプリも晴れのままでしたから、この辺りだけ、雨が降っていたようです。
傘も早とちりでしたかね。
あれが雨乞いでしたら、雨の女性はたしかに神様になってしまいますね。そうなのかもしれませんね。
わたしたちには、見えるものしかわかりませんけどね。
お客様ですから、いらぬ詮索はいたしません。
ただ、あだ名を聞かれた時は、少し困りましたね。
いつも、いろいろ考えては、納得してらっしゃる様子でしたので「考察くん」と、親しみを込めて呼ばせていただきました。
なんともはや、人間の方の説明は独特で面白いものでございます。
しかし、ご自分で喋ってらっしゃること、お気づきではなかったようで。私たちが見えていることなどそっちのけで、ぽかんとした顔をしてらっしゃいました。
またいらぬことを申したかと反省いたしました。
色々な方がいらっしゃいます。
鬼の方も、天狗の方も、子泣き爺と呼ばれる方も、もちろん、人間の方も、見える限りはお客様でございます。
林檎の扱いはございますよ。
赤いのも、青いのもございます。
最近では赤いものは手に入りにくくなりました。
ああ、河童の方は、尻子玉と呼ばれますね。
私どもの言葉で失礼いたしました。
今後とも、森商店をご贔屓に。
ローソン?ああ、そうでございましたかね。
失礼いたしました。
***
次の話
前の話
