50年の窓 第9章
第9章 出発、ワルシャワのUN(国連)支部
翌23日の18時前、メアリーからの電話、
「ハイ、カレン。今日、元のチームの国連の上司とコンタクト取れて、彼が要求する項目に全部合理的な情報がもらえたら、要求された規模の範囲なら全部用意できるそうです。よかった。」
「すごい!本当!ありがとう。」
「それから、女性用の国連のユニフォームを2着用意してくれるって。それから感染防止対策ですが、防護レベルもいろいろあるようです。最強のレベルだと全身を覆うようなものもありますが数日の生活を伴うので、適度なものを組み合わせて専門家に提案してもらうことにしました。食事はこちらから持参することになります。また水はワルシャワで必要な量のペットボトルを購入し車に積んでおきましょう。その上司が決済のために若干の情報が欲しいようです。項目を20時までにメールするので、明日の9時までに返事をもらえるかな?」
「もちろん、答えられない項目があればその通り表現して必ず返信します。」
「いつ出発できますか?」
「具体的な日程はまだ考えていないけど、やり残している事はないので、もういつでも。」
「了解、航空運賃も国連での基準内なら、UNで費用見てくれるかもしれない。テッドに負担掛けないで済むかもしれません。なるべく早い時期でUNの予算で済む便があれば、私の方で予約しちゃっていいかしら?」
「ケントをご紹介していませんが、彼が、通信のデバイスと護身用の拳銃を用意してくれることになっているのでそのスケジュールが未定なので、明日の午前中にメールします。現地での通信はWiFiが使えるようなのでPCがあれば日常と変わらないようです。それから、旅行中に詳しく経緯をお話ししますが、CIAの現地スタッフが陰でサポートに入ってくれるそうです。」
「それは、ありがたいですね。だったら、顔を出さなくても、こちらの移動予定を刻々知らせた方が無駄がないので、メールアドレスを頂けば、移動計画を送りまた変更の都度送ることにしましょうよ。」
「そうね、それが無駄がないし、情報が得られるまで彼らは隠れてくれるそうなので、わかったわ。ケントにすぐに伝えます。ケントがCIAへのポートなの。」
「カレン、もう1つ重要な戦略があるの、ロシアは建国の時代から農民は農奴としてひどい扱いを受けていたの。最近でもウクライナでも豊作にもかかわらず200万人以上餓死するような人為的な出来事もあったり、農民に対して非常に厳しい圧政で反対運動などできる状況では無かったのです。
昔のフランスのパルチザンのような小さな組織が今でもあるんだそうです。実は自分の中で移動のためのガソリンの調達が納得のいくレベルに達していなくて不安があり現地の善意の協力者からの情報が欲しくなると思うのです。
そこで閃いたのですが、彼らも9~10歳以下の子供全員がはカレンのいう症状になっていると思うのですが、実際カレンはその問題の救世主であるわけで、そういった話をすることで、その農民パルチザンの協力がもらえないかと思うのですが、どう考えますか」
「私は、救世主ではありえない。まだ問題に気づいた段階なので、しかし、そういった文字通り地に着いた方々の支援は非常にありがたいのはよくわかります。何をしたらよいですか?」
「そう来なくっちゃ。適切な場所で農民を集めて簡単な啓蒙の為の説明会を何回かやりませんか。後は彼らが間違いなく広めてくれるし、カレンが問題を解決した後、施策実行時に全国を上げて強力な協力者になると思う。彼らへの説明会で使うビラを数千枚用意しておきたいのですが、現在起こっている事の説明と我々の活動の結果期待できることを文章にしてもらえますか。私が翻訳して印刷に回します。」
「その閃き、すごいです。私、思いもつかなかった。彼らが最初の被害者ですものね。了解。明日の朝までにメールします。」
「了解、では、また明日。」
ケントが必要な通信その他の機材を週末に用意してくれることになり、それをメアリーに伝え、彼女が飛行機の予約を済ませ5月26日昼の便でニューヨーク・ラガーディア空港から出ることになった。になった。
5月24日
早朝ケントからカレンに電話があった。
「カレンおはよう。26日の出発に間に合うように、通信関係と拳銃の用意ができたので明日の夕方までに届けられる。通信の方はスターリンクの接続なの13インチのほどのアンテナパネルを水平に置いてPCにつなぐだけでできるようです。それだけでPCがネット経由でできることはすべてできるみたい。拳銃の方は明日届ける時に使い方説明します。CIAで特別の許可証を貰ったので預ける事が前提ですが機内持ち込みも可能です。」
「了解です。ありがとう。メアリーが無茶苦茶有能で、国連の特使のような支援を受けられるようなの。明日何時頃いらっしゃる?」
「夕方、6時頃でいいかな?」
「お待ちしています。」
5月26日
機中では、カレンとメアリーの2人の性格の違いが終わりのない話題になっていた。カレンもケントのこと言えない『好奇心の虜』で自分の中にコツコツと知識のネットワークを築いてゆく。メアリーは自分の行動を重視する、「躊躇は敵」と言い切る。実に不思議な2人の組み合わせは、お互いの過去を説明しながらより深い関係を短時間で成してしまった。
国連が用意してくれた感染防止のマスクはフルフェイスで説明書には眼球表面からの感染も防ぐようで、また微細な怪我でも傷口を露出しないようバンドエイド状の保護膜や複数の手袋も添付されていた。ちょっと目立つのを覚悟で、飛行機を降りる時から夜テントで寝るときまでマスクをつけることにした。
フランクフルト経由でワルシャワに着いたのは26日の夕刻であった。入国審査で早速フルフェイスマスクのせいで引っかかってしまった。国連のIDの効果で無事通過。ワルシャワのUNの出先機関に出向いて用意されているはずの機材の確認と受取、情報交換のためにゆく。白夜でまだ明るいが、ワルシャワ郊外のキャンプ可能な公園で早速キャンプ。まだろくな装備もないのでキャンプというより朝を待つ。フルフェイスのマスクを付けた2人は、他人が見ればエーリアンの様だった、、、
5月27日9時
「おはようございます。ニューヨークの国連の『人道支援』のグループから連絡がありましたか。私メアリー・ジェンキンスといいます。」
「伺っています。到着はずいぶん早かったですね。ご安心ください、必要な機材はすべてそろっています。こちらでご確認ください。ジェンキンスさん。」
「メアリーと呼んでください。」
「トムさんでよかったですか。
トム、こちらが救世主のカレンです。」
「トムでいいですよ。お2人とも初めまして。」
「カレンです、よろしく。救世主だなんてとんでもない、ただの遺伝学者です。」
「こちらへおいでください、早速ですが機材をご確認いただきましょう。それにしても、そのマスク必要なんですか。」
「後ほど御説明します。」
カレンもメアリーも既に感染防止用のフルフェイスのマスクをしていた。
そこには、真っ白なキャビンのついた新しいジープがあった。ドアにブルーでUNと書かれている。誰が見ても国選の特使に見えるはずだ。
「わぉ!きれいな車。トム、ありがとう。」
「こちらがご依頼いただいた機材のリストです、ご確認ください。」
「トム、この車の燃費はどれくらい?10Km/L走るかな?」
「10Kmはむりですよ、そういう車じゃないから、よくて8kmかな。」
「荷物チェックしたら事務所に戻るので、我々の目的を再確認の意味でご説明し、モスクワまでの経路と、そのガソリンの入手事情、モスクワ市内の状況と、モスクワ大学内部の研究者が今どんな状況にあるのかなど、わかる範囲でいろいろお教え、いただきたい。」
「今日はモスクワ近郊で業務についているものも呼んでおりますので、30分後に会議室で打ちあわせたいと思います。」
「ありがとうございます。また、農夫系のパルチザングループと相互支援関係を確立したいのですが、そういった情報も含まれますか?」
「分かりました。そちらに詳しい者も1人いますのですぐに呼び出します。30分後には間に合いませんが、」
「ご存じのように、2032年2月以降ロシアは無政府状態です。いずれNATOの方針が固まれば国連も協力して新たな体制構築の展望が見えてくると思います。
農村などでは見られませんが首都であったモスクワや中小都市でもウクライナからの帰還兵士、特に恩赦で兵士登用された者は武器を所持し極めて危険な存在です。通常は身を隠していますから用心深く周囲への監視を怠らないようにしてください。防弾チョッキも用意していますので必ず着用してください。戦いでの傷痍軍人も見ることになると思います。
大都市では彼らは得る物がないので多くは農村部に対比しています。後でご説明します。農村パルチザンがその活動で彼らを援助している地域もあります。
時々警察の車両、警官の制服の者を見ると思いますが、彼らは小銭をせびりに来ます。銃を向けたり危険なことは聞いていませんが、時間の無駄なので、小銭を用意しておく必要があります。相手の人数によりますが5ドルくらいから交渉でしょうね。高額紙幣を見せると厄介ですから少額紙幣出発前にワルシャワでご用意してください。
モスクワへの経路は、ベラルーシュはロシアとの関係で政権が不安定なので少し遠回りになりますがリトアニア、ラトビアを経由するのが安全と考えます。ラトビアのロシア国境まで800Kmほどです。
国境前ですべてのタンクをガソリン満タンにしていただくと、合計170リッターほどで、国境から1200Km走るのがギリギリです。モスクワまでは700Kmくらいなので、話がモスクワで済んでまっすぐ帰るとしてもガソリンは充分であるとは言えません。ご依頼のあった予備の20リットルのタンクを5個用意しましたが、あと2つぐらいは積めるので追加しておきましょう。
今回の目的を詳細にお聞かせいただけますか。ご協力出来ることがほかにあるかもしれません。」
「いろいろご準備板出来ありがとうございます。出発前にパルチザンの話を伺っていたので、彼らが喜び支援に回ってくれる材料になると考え、救世主になるカレンにパルチザン向けのリーフを4000枚印刷して持ってきました。カレンご説明願います。」
「私は、人の遺伝子の研究者です。子供の自閉症と遺伝子の関係を米国で調査していましたが昨年の10月以来遺伝子異常で好奇心の発育が遅いか無い子供が多発して、特にロシア主審者において当時9歳以下の子は確実にその症状があることが分かりました。
仮説ですが、ロシアで、その遺伝子改変を行うベクターウイルスの開発と何らかの方法で散布されたのではないかと考えています。詳細は次の機会にしますが、仮にこの仮説が正しければ、人類の存続にかかわる重大な問題です。
そして発症元と思われるロシアでは現時点で10歳以下の子が全てこの被害者ではないかということです。このマスクも身勝手の様で申し訳ありませんが感染防止の目的です。ワルシャワが現時点でどの程度汚染されているかまだプレ調査の段階で全く分かっていません。
私は人類存続という課題に取り組む覚悟で、ロシアに行きます。ベクターウイルスといいますが、誰が何のためにどんな方法でこのベクターウイルスを造ったのか、それを知り、それが仮説でないことを実証したいのです。」
「カレン、ありがとう。
あくまでも現時点では仮説ですが、このロシアにこそその被害者の子供たちが沢山いるはずで、パルチザンの皆さんが既にその変異に気づかれていれば、彼らもカレンを『救世主』と理解し協力を惜しまないのではないかと考えています。」
「大変な話になっているのですね、ポーランドでも、そのような『最近の子供は大人しいね』という噂が無い訳ではないですね。
いつご出発されますか。」
「今日はこれからここで、すべての準備を再確認して。明朝出発します。ホテルをご紹介いただきましたが、人込みや空調などを経由した感染もあり得るので、適当な場所で野営します。」
「パルチザンに詳しいものがまだこちらに来ていませんが、私の方から説明して、国境を越えて直ぐのセーベンという町で、明後日29日の夕刻に仲間を集めて説明会が出来るように手配させます。」
装備の準備、確認、打合せが終わり21時過ぎ、空港そばの国連の事務所から、公園の多いワルシャワ街の景観を楽しみながら、ビスワ川東岸のトムに紹介された野営地とした公園まで短いドライブ。メアリーはジープの運転にすぐに慣れたようです。
ボストンより緯度が10度高いワルシャワの5月末は白夜。
テント設営。フィルターで濾した空気をファンでテント内に送りこみ、テント内の空気圧を若干高めにすることで、テントに入ったあと15分後にマスクを外してもよいことになっている。
メアリーは、またこういう場面では非常に機敏でボーイスカウトのように瞬く間にテントを設営してくれる。多分普通の女子とは違う幼児時代の経験があるに違いないとカレンは感じた。「車中で話題にしてみよう」とカレンは思うのであった。
テントで、ケントが用意してくれたスターリンクのパネルでWiFiを設定し、ケントにワルシャワ到着以降の出来事を逐一報告し、テッドにも短信を送った。メアリーもいくつかのメールを打っていた。
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