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50年の窓 第4章

第4章 現状の再確認

5月9日
NSAの調査団5名が来訪し、ケントとカレンがこれに対応した。これまでに2人が理解していることを全て説明し、そして5人の内の責任者は全てを、2人が説明した通り理解したように見えた。

NSAは、2人に政府命令として常時所在を明らかにし、更にボストンから了解なく出ることを禁止し、本件における政府のコンタクトはNSAであると指示し、近日中に招聘令状を出すのでワシントンに来てほしいと伝え、更なる調査はNSA配下でHHS主導で行うことになると考えるので、令状の到着を待ってほしい。と伝え帰局した。
2人は、ある意味で肩の荷をおろし安心した。そしておとなしくNSAからの令状を待つことにした。

NSAの来訪のあった翌週、5月13日
NSAの調査団の責任者からケントにメールが入り、
「明日14日水曜日、副大統領を含む関連する部門の責任者のスケジュール調整ができたのでカレンと2人で出頭してほしい。会議では先日の話を再度プレゼンテーションしてほしい。
1、今後の予想される事態と
2、対応について意見交換したい。令状はコピーをメールに添付する。令状本文は明日手渡しする。」との内容だった。

ケントは、カレンに電話した。
「ハイ、カレン。NSAから連絡があって、『明日ワシントンに来い』ということです。NOは無いみたいですが、明日大丈夫?」
「もちろん、これより重要な話なんてないわ。」
「その会議は副大統領も出るそうですよ。」
「NSAってやっぱり話が早いのね。」
「確かに、国家安全保障に関わるからね。ところで、予定されている議題は、先日のプレゼン説明の繰り返し以外に今後の予想される事態とその対応について議論、と要求を受けたけど、対応は彼らの問題だけど、今後の事態は、とりあえず我々でないと解は出せないと思う。今からテッド教授の時間をもらって、我々なりの、予想される事態を描いておきたいのですが、、どう?
あなたと、テッド教授の時間を今から何とかしてもらえますか?明日のホテルとか予約はすぐにしておくので。」
「えっ、今から?、、、わかった。今すぐ、教授に電話する。何とか説得するから、10分後に迎えに来て。」
「了解!ありがとう。」

「テッド教授、夜分、押し掛けて申し訳ありません。
現在の状況は既にご存知のところと理解していますが、明日、NSAに呼ばれており、今後、具体的にどんな展開を想定しておくべきか、教授のお考えをご示唆いただきたいのですが。」
「そんな固い言葉はいらないよ。カレンのことなら。」
「今回の、遺伝子障害にはウイルスによる感染性があると考えるべきと、我々は考えていますが、そう言った前提で、想定すると、今後どんな事態を想定すべきでしょうか。漠然とは理解しているつもりですが、その内容はあまりにも恐ろしい内容なので、教授のお知恵でフィルターした予測をお聞きしたいのですが。」
「また、教授の所見の通り、自然な遺伝子異常ではなく人為的な工作であったと理解することが正しいと、今は考えています。私にも、人類全体の大きな問題になるという予見しか持てないのですが?」

「今起こっていることを再確認しましょう。
第1に、このウイルスは、脳の発育への影響を目論んだものだが、ウイルスが体に残留する条件は体内の細胞の受容条件によって変わるので、遺伝性のある遺伝子障害を目論むやからは生殖細胞の受容条件に合ったウイルス、この場合、ゲノム編集機能を持つウイルス(ベクターウイルス)を使うことになる。
ただし遺伝性のある遺伝子障害は卵子や精子がウイルスの影響を受けていない限りその個体の遺伝子には影響しない。両親のどちらかがこのウイルスの保有者であればその子の遺伝子は障害を受け、その子、孫へと受け継がれる。胚から細胞分裂が既に始まった後での感染はその固体の遺伝子には影響しないが感染者としてウイルスの保有者となることで、その個体の子には遺伝子には必ず異常が見られることになる。

第2に、その影響で、好奇心にかかわる脳内のインセンティブ機能が停止する。
好奇心については、ドーパミンというインセンティブが働かないことから、知りたいという欲望、好奇心を楽しいものとして反復する機会がなくなり、その結果、好奇心の結果できる脳内の知識のネットワーク、オントロジーが育たないということになる。結果として、その子は生涯に、探究心が無い、物事に興味がない、言い換えると頭脳回路の一部以外と肉体はほぼ健常ですが、自分の発意で何かをすることは無いと思われるので、上司や政権などに隷属することに疑問を持たない人格になる、と考えるべきでしょう。

第3に、そして、もっと重要なことは、君はまだ気がついていないかもしれませんが、、これは遺伝子の変化でしかも優勢遺伝になると思われるので、当然その子供にはその遺伝子の異常が引き継がれるので、比較的短期間で人類が全員がそのようになるという、恐ろしい話が続きます。」

教授は、しばしうつむき、沈黙のあと、
「探究心が無いということは、知りたいという意欲が無くなるので、物事を改善してゆこうという動機がなくなり、現在以上の科学技術、人文科学などあらゆる分野での新たな進展がなくなると考えるべきです。哲学的な分析をしても意味はないでしょうが、人類存在の意味とか、個人の命の意味とか、価値の概念もなくなり、飢饉で飢えても改善の欲はなく、経済に破綻があっても改善の知恵はなく、人類は何万年、あるいは数千年の先に他の種の配下になるかもしれません。そこまで人類が生き延びることができればですが、、、

第4にもう1つ大事なことは、この事象の解決策を考えることのできる人は、現在3~9歳以下の人には期待できないということです。

ということは、同時に、研究者としての脳年齢限界が仮に60歳だとして、今9歳の子供はあと50年しかないということです。最後の1人で頑張ることはできないでしょう。現実には28歳のカレンのような学者を中心に対処策をすれば、研究に参加できる人間は現時点で20歳以上、50歳未満、大凡30年間の世代の幅に限られることになります。

あと50年ほどで、9歳の子はほぼ60歳ですから、そこから下、今回の課題に使える若い人はいません。50年と言いましたがそれは好条件が前提で、実行上は25年ほどと考えるべきでしょう。急がねばこういった科学的な知識を必要とする問題を解決できる人材は居なくなる。」

「人類存続の存続に関わる由々しき事態です。」
「我々に残された開かれた窓はわずか25年から最大50年と考えるべきでしょう。」

「このことの意味が分かりますか?
世界各地の、人類の5000年以上の文化が全て消え去ることを意味します。
人類はなんのために生きてきたのでしょうか?
人によって個々の生きる意味への理解は異なって当然ですが、どの様な意味であってもそれら全てが無価値になり得るのです。なんということだ、、、」

教授は、自分の言葉に改めて驚きを隠せず、言葉をとめてしまった。
「教授、ありがとうございました。そのお答えの予感はありました。『人類の1大事』であろうことを予感はしていました。教授の専門家としてのお言葉を重く受け止めさせていただきます。」
「実は、明日NSAから呼ばれており、今事件の対策について副大統領をトップに議論する事になりました。そこに我々2人が呼ばれており、説明が求められています。教授のお言葉をしっかり受け止め、明日の会議に臨みます。その後の対応は政権に委ねたいと考えます。」
「米国が国家として問題意識を持って、直ちに取り掛かれば、何とかなるかもしれない。国が動き出せば教授にも意見照会が間違いなくあると考えます。その時は関係者に正しい理解を植え付けてください。お願いします。」
「NSAの方々をしっかり教育してください。頼みますよ。カレン、ケントさん。」
「ありがとう、ございます。」
「ありがとうございます。また、結果をご報告申し上げます。」

ケントとカレンは、帰宅後、これらの話をまとめ、2つのプレゼンの準備を整えた。
第1は、「何が起こっているか」という現況の説明、これはカレンが担当し、
第2は、「その現況が意味するもの」というテーマでNSAの調査団の要求である「今後予想される事態」に答えるものであり、ケントが作成した。

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第5章 悪魔の雫
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