50年の窓 第6章
第6章 NSA(米国国家安全保障局)
テッド教授の理解を確認した翌朝、14日
早朝のシャトル(予約なしの定期航空便)でワシントンに向かい、2人は指定された時間にワシントンのNSAの調査団の責任者を尋ねた。直ちに会議の場に案内され2人がプレゼンの準備をしている間に、NSAだけではなく HHSやCIAの部長レベルが6人ほど着席し、全員で副大統領を、5分ほど待った。
副大統領が着席し、NSAの調査団責任者が議事進行を始めた。
彼が、本件が非常に重要な課題であることを認識しているのがはっきりわかった。しかし、他の部局、特にCIAは発言以前に態度そのものに本件に好意的ではない態度を表していた。
要求された2つのプレゼンが終わり、今後の対策を議論する段になって、副大統領は「君たちに任せる」と言って離席してしまった。副大統領は、人類の未来という抽象的な危機よりも、この前例のない事件が政権に与える政治的・経済的リスクを本能的に察知し、即座に責任回避を選んだ。
ケントもカレンも、この会議が期待するように進み得ないことを理解する。
思えば、報告した内容が事実であればCIAには管轄権の侵害であり、情報の秘匿という点でも大きな汚点になるかもしれない、また本件をCIAがすでに察知して動いていれば、2人の動きはCIAには迷惑と映るかもしれない。
副大統領にして見れば、何の事前説明もなく、突然「事実なら人類の未来に関わる」、「50年しかない」と言われる抽象的な危機よりも、仮に事実であればこの前例のないスキャンダルが政権に与える政治的・経済的リスクを本能的に察知し、即座に責任の回避を選んだのであろう。そういう意味では、副大統領はNSAの事前詳細説明もなく、理解する間もなくプロジェクトの責任者に押し付けられたという被害者意識もあったのかもしれない。
議論は進まず沈黙の中で、カレンは意を固めて、
「ロシアに赴き、当時の関係者を探して、事情を確認したい。合わせて感染を防止するワクチンの製造についての意見交換をしたいので、政府特使としての肩書をいただきたい。」
と発言したが、CIA出席者の責任者と思われる方から、
「それは、我々の仕事です。お任せください。」
と、却下されて、その発言を最後に会議は閉会されてしまった。
CIAは、この問題がロシア内部の機密工作に関わる可能性が高くNSAや部外の科学者であるT2Ksに詳細を開示されることを望まない事情があったかもしれない。2人はそんな事情を想像もしていなかった。
NSAの調査団長も説明が悪いと言わんばかりの態度で、取り付く島もなく、2人は早々に退席せざるをえなくなった。
官僚を含む「政権組織」という有機体の複雑な内部力学の不条理に正面からぶつかることになり、まして、それが障壁になるという思わぬ思わぬ事態に、カレンはエネルギーを向ける先を失い、かつてない心の内部の混乱を感じた。
そして、冷静な思考を保つ事ができない自分に気づいた。
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第7章 仮説、ロシアへの決意
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