50年の窓 第21章
第21章 第2回Ω研究会全体会議
2038年6月
第1回から10ヶ月の時は流れ、各WGから、研究の成果が発表された。
WG01(亜種胎児の遺伝子の修正手法の開発)
既に学会で公知となっている技術および、ロシアでDウイルス開発に従事した、ゲオルグ・ラズモフ博士の論文を再評価中である。
WG02(より精度の高い感染者確認手法開発)
「無いことを立証する事」は、論理的には容易ではなく、複数の試験方法を重ねることでその精度を上げてゆく以外に方法は無いと考えている。WG15の火星移住対応で、「ミス無し」の要請は容易ではないが、多くの手法を検証する中で、答えを見つけたい。
WG03(Dウイルス感染予防薬の開発)
技術的には問題ない。米国にこだわらず各国の著名なウイルスワクチン製薬会社に照会中。開発期間、コスト情報などが近日中に得られる予定。
WG04(感染者の非感染源化技術の開発)
体内に潜んだウイルスを全滅させることは、学会の通説では骨髄に潜伏してしまうなど、ほぼ不可能と言われている。逆に骨髄に潜伏させて固定化する手法が無いか議論をしている。
WG05(亜種となる時期の確定)
現在、動物実験で、この課題に対応可能な調査方法を検討中。
WG06(亜種世界予測確認)
まず、感染者数について、現在の検査方法を利用した全世界からのより信頼できる感染者数情報を得ることが3ヶ月次ベースで始められるところまで進んだ。6月末で、全世界で感染率80%となり、まだ対策がないので当然ですが3ヶ月毎に確実に増えている。
次に亜種の数は、12歳以下で、米国内では、50万人ほど確認できてきたが、調査済み母数から評価すると、2000万人程度にはなる。
将来の社会がどうなるかという展望について、ロシアからの移民の子らが、亜種として12歳で現時点の最高年齢。現在までに10名ほど面接調査したが、以前の副議長カレン氏からの情報と同様、「自ら話すことは少なく、執着心のレベルが低い、会話も受け身の対応。呼びかけに対し、対応に不自然はないが、認識する世界が正常者より狭い」ように感じる。今後調査対象を更に増やし、知識の幅、また亜種同士の関係性についても調査を進めその社会性について議論できる材料を獲得する。
WG07(人類の叡智保存)
我々の課題は、叡智や文化を保存することではなく、探究心が著しく下がった亜種が利用可能な、情報の形態が何なのか、という視点に戻らざるを得ないと考え、哲学的な議論に落ち込みそうです。WG06での結論を環境条件として議論することになるので、少し時間がかかる見込み。
WG10(途上国支援)
G20のレベルでそれぞれの国のためのΩプロジェクト対応組織を定義していただくことを各国と交渉中。現時点で途上国支援への働きかけは未着手。
WG11(現実的で実行可能な非感染者の隔離手法開発)
海外も含めて、いくつかのモデルエリアで各国の主観庁と協力しながら実験的に対応を開始している。感染者に何の症状もないため、単身生活者は別として、家族の分離、勤労者の勤労環境などが原因で、ほとんどのケースで受け入れられない。特に都会では不可能。裕福という意味ではなく、1部のエリート層は理解するケースがある。また、「亜種」という概念と表現は社会分断の恰好の材料となるので、広域に展開するにあたっては充分な配慮が必要になる。
WG12(非感染者適切対応)
WG11の進捗がほとんど進んでいないため、非感染者及び感染者で精神面で問題になる課題発生はまだ見られない。
WG13(広報宣伝)
NSAの広報室にΩプロジェクト広報担当を既に設置運用開始している。関連情報の広報と、コールセンターでの国民からの問い合わせ対応進めている。米国民の本件認識が高いとは言えない。また米国外における対応のために、各国への情報提供の連絡網を構築中、各国で体制準備が出来次第情報共有を始めている。
WG14(人工授精と膣外生育による感染者の子の救済手法)
有効な提案と考えられるが、WG05と関係するが、実際に亜種でない感染者の子が亜種化するプロセスを動物実験で確認する必要があり、現在、実験方法の考察中である。
WG15(スペースXとのリエゾン)
前向きな協定が締結できる見込み。彼らの現在の最大の興味はWG02の高精度の感染者識別方法の実用化であった。もちろんWG01への期待が1番大きい事は自明ですが。
報告内容に好ましいものは何1つなく、現時点では、研究会活動が軌道に乗り始めたということが、唯一の好材料と言えた。
報告の中で、当面の最も配慮が必要な判断は、非感染者隔離についてであった。検討中で他国の状況は報告に含まれていなかったが、どの国も警察力を動員して動き始めているが、1向に進まない。理由は予想されたとおり、感染者に何の症状も無い、また生まれでる子供に外見上の問題があるわけでもなく、家族の別離を認める人は、どの国でもエリートと呼ぶべきか、理屈をしっかり理解できている人々に限定されていた。
NSA長官の大いなる心配は、一般的に非感染者隔離の難しさがあるだけでなく、エリート層のこれに対する理解の深さと、また別荘を持つなど経済的条件の差異で現実的に隔離が不可能ではないことから、将来における社会制度や立法では解決しにくい、新たな社会分断要因になることが明白であると思えることであった。
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