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連載11:文字起こし〈コロナ禍の痛みと決意〉4-1

マークス神父と「また煌堂で」

受難の始まり/聖週間2020

4-1 文字起こし〈コロナ禍の痛みと決意〉

 COVID-19が日本列島に上陸した翌月。
 2020年3月28日(土曜日)。
 この日、ジョー・マークス神父が奉仕していた教会の門扉が閉じられ、固く施錠された。
 教会の封鎖である。
 またその朝、「青空告解」を禁止する旨が、正式に修道院長からジョーに申し渡された。

 教会は4月5日に「聖週間」を控えていた。

 聖週間は教会にとって、一年で最も重要な、典礼のクライマックスである。
 大勢の信徒たちが教会に集まってくる時期であり、しかも春休み中だ。
 人の移動は普段よりも多い。
 教会封鎖の決断は、やむを得なかったというよりも、もうそうする以外になかったと言えるだろう。
 なお、日本政府より緊急事態宣言が発出されたのは、4月7日である。

 3月28日に話を戻す。
 ジョーはビデオ通話のコールを、約束の時間よりも前に鳴らしてきた。
 彼のタブレットの前には、ちゃんとミサ道具一式が準備されていた。

 バーチャル聖堂「煌堂」でのリモートミサを二人で終えた後、道具を片づけながら彼は言った。
 「ミカゲ、私、考えた。生きますよ。生き延びることにした」

 彼はタブレット越しに、真っ直ぐに私を見つめた。
 「少なくとも今は、このジョー・マークスは自分を大切にして、無茶をしないで、教会共同体(エクレシア)を支える立場に徹する」

 私が無言で目で先を促したので、ジョーは続けた。
 「この騒ぎが収束するまでの間は、この瞬間も死に直面している人が大勢いるから、その方々のために、特に命を落とした司牧者たちのために祈って、そして、彼らの遺志を継いで私はまだ生きて、彼らの代わりに、彼らと一緒に、福音を伝えていく」

 「いずれ、この私が本当に必要とされる時に向けて、今は祈りながら準備する 」

 「ミカゲ、あなたの言いたいのはそういうことでしょう? まだ完全に納得できてはいませんけどね」

 「ねえ、手伝ってくれるでしょう? 支えてくれる?」

 静かな、しかし決意のこもった一言ひと言に、彼がどれほど苦悶して今の言葉を自身に言い聞かせてきたかが伝わってきた。

 「ミカ、あなたのアイディア、つまり二人でこのタブレットでミサをして、時空を超えたこのバーチャルの場を光に満ちた聖堂、つまり『煌堂』にして、もっと光で満たして、世界に向けて光を放つということ、とてもいいですね」

 一呼吸おいて、ジョーは言った。
 「この煌堂の光は、きっと人々を照らすだろう」

 タブレット越しに、救急車が慌ただしく走り去っていく音が聞こえてきた。
 「ああ、今も誰かが病院に運ばれている…」

 「昨夜もね、救急車のサイレンが聞こえてきた」

 「あの救急車に乗っているのはどんな人だろう。私の知り合いではないだろうか。どんな気持ちでいるだろうか」

 「この街に、この都市に、この国に、そして世界中に、自分の愛する人、かけがえのない人の状態について、今、今この瞬間、不安を抱いている人たちがどれほどいるだろう」

 「眠れない夜を病院で過ごさなければならない人たちが、どれほどたくさんいるだろう」

 「どれほど不安だろう。どれほど苦しいだろう。どれほど心細いことだろう…」

 「今の私にできるのは祈ること、それだけだ」

 「だからこそ、私はこの煌堂ミサを大事にしたい。ねえ、ミカ…」

 少しの沈黙の後、彼は続けた。
 「ある方から電話があってね。買物に出たら、いつも賑わっている商店街が静まり返っていたそうです」
 わかる! 
 不自然な静けさ、不気味なその空気感、とてもよくわかる。

 「誰も歩いていない大通りでは、桜が見事な花を咲かせていて、まるで散ることを忘れているように見えたと。美しい花を誰かに見て欲しくて、まるで桜が枝にしがみついているみたいで、小さな花の一つひとつが愛おしかったと」

 「彼女はそう仰った」

 ああ、その光景! 
 近所の桜もそんなふうだった。

 誰も見られることのない桜、あたかもそれを慰めるかのように、その上を大雪が舞ったのは翌日のことであった。



mikageです:

コロナ禍中に
恩師マークス神父(仮名)と過ごした
バーチャル聖堂「煌堂」での祈りの日々を
連載で綴っています。

(たまに単発で短編を挟むことがあります)

更新は不定期です。
1話ごと、祈りの中で言葉を紡いでおります。
気長にお付き合いくださいませ。

なお、本作は実話録ではありますが、
主人公はじめ登場人物・組織名等は、
(少なくとも当面は)仮称を用います。

読者の皆様には、ジョー・マークスを、
世間的な「肩書き」や、修道会・教会という組織の名称とは切り離された、ただ「神の御前に何ものでもない、一人の無名の老人」として、受け取っていただきたいと望んでおります。

また、記事は事実をベースとしつつ、
一部の出来事や時系列などに、再構成や脚色を含みます。

続き(連載12)はこちら↓

連載の第1回はこちら↓

単発短編はこちら↓

記事にスキ♡していただけると
舞い上がって喜びます♪

今後ともよろしくお願いいたします。

目を留めてくださるお一人おひとりに
祝福を祈りつつ…
mikage

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