よわよわ作家とつよつよ編集さん 1
1:受賞、そして。「うわっ…私の才能なさすぎ…?」
ある夏の日。
つよつよ出版(※仮名)からお知らせが届きました。
みつき「コンテスト……受賞って?? え、HPにも載ります!?」
や、や、まさかね。こういうの、流行ってるもんね!
きっと、メールで噂になってた「美味しい話」ってやつだよね?
と言いつつも、気になって挙動不審をくり返します。
後日、ネットを見れば、出版社のホームページにはコンテスト結果の見出し。そこでふたたび目を凝らし、よくよく確認した私は――。
「ホントだった……」
ペンネームがしっかり載ってたのでありました。
「う、わー……っ!」
夢かな?
ううん、夢じゃない。
しかも書籍化するって。
私の書いた作品が……形になっていろんな人のところへ届くって!
(∩´∀`)∩ワーイ!! ワーイ!!
以下、小一時間ほど、幸せでいっぱいでした。
一方で、他の作家さんたちは、受賞の知らせを聞いたとき、どんなことをしているのだろう? と気になり始めます。
家族や友人に連絡するとか? あるいはSNSで告知をするとか?
家で飼っているワンちゃんや猫ちゃんを抱きしめるかもしれないなぁ。
もしくは、神社にお礼参りに行くのかも?
はっ。そもそも、正しい喜び方ってあるんだろーか……。
よくわからなかったので、とりあえず自分の部屋で好きな音楽をかけ、踊り、とっておきのお菓子を食べ、漫画を読み、まだ見ぬ担当さんに想いをはせる……を15分単位(×3)でリピートします。
なぜかこのとき、大人気少年漫画の「鬼滅の刃」も読んでました。
たぶん、物語に没頭することで、自分なりに気持ちを落ち着かせようとしたのでしょう。
あとから思ったことですが、もしここで「バクマン」(※漫画家さんと編集さんのアレコレがドラマチックに描かれている名作少年漫画)を読めるような人間だったら、いろいろ迷走しないですんだのかもしれません。
そして夜も暮れたころになってようやく興奮がおさまり、開いたパソコンの間でブラックコーヒーなどを飲みはじめます。
もう音楽はかかっていません。
外では夕暮れ時のざわめきはあるものの、窓を閉めればすっかり外界と離れた静寂がおとずれます。
「夢じゃないんだ、なぁ」
ひとりごちて、腕の一部をつねってみます。
ずっと出版社さんから自分の本を出してみたいなって思っていたものねー。
しかも受賞だよ? 賞をいただいたってことは、多少、自信がなくても胸を張って出していいってことだよね?
コーヒーをひと啜りしたあと、自室をぐるりと見回します。
ここは、私が数年かけてつくった、執筆部屋。そして好きなものばかりを集めた自分の城。
思えば、本もたくさん読んできたな、と思う。(ウソです、たいした量じゃないです。ごめんなさい)
あこがれの作家さんがいて、私もそんなお話が書きたいって思って、筆をとったなぁ……としみじみしたところで、あることに気がついてしまいました。
あれ……?
これ……逆に、私って、才能ないってことなんじゃ……?( ゚Д゚)
や、だって。
私、そんなに若くないよ?
それに、小説を書き始めたばかりの人間でもない。
今まで好きに書いてきたから、考えたこともなかった。気づかなかっただけなんだ。
もし仮に、才能というギフトを持っていたならば、とっくにデビューして、書き上げた作品もどんどん入賞して、ガンガン書籍化してるはずだよね……?
だって、この界隈って、ほんとに天才が多いんだもの。
十代でデビューしてる人もいれば、書き始めて数ヶ月で投稿サイトのランキングにいる人もいる。
あるいは、一作を短期間で書き上げてしまい、かつ量産できる人もいる。
そういう方々って、大体記憶力と実務能力がものすごく高いんだよ。たぶん知能の高さが最初から違ってる。
それにひきかえ、私はどうなん。
そんなに頭の回転が速いわけではないし、するどい先読みができるわけでもない。
文章もキレイじゃないし、プロットもバッチリできたことはない。
キャラに魅力があるかといえば、皆無とは言わないまでも王道の魅力ではない気がするし。
コミュ力……は作家に必要なのかどうかわからないけど、SNSの状態からしてそんなに求心力はないし。
頼みの綱の性格はいたって普通だし、体力だって今は健康になったけど、特別に丈夫ってわけじゃない。(過去6回ほど体にメス入れてます)
……気づかなければよかった。
つまり、私の場合は、才能で書いたものが認められたんじゃなくて、これまでの人生で培ったトータルな何かがあって、それが運よく引っかかったってことなんだと思う。
そう、入賞の決め手は、経験値。
どんな人間でもレベルが上がればそれなりに強くなれるよっていう、某国民的RPGゲームのような優しいシステムがあってこその――。
「終わった……」
受賞したその日に、己の才能に絶望して涙するなんて、他の誰が経験しているのだろう。や、もしかして、皆こうなの?
あと少しの間だけ、受賞効果で勘違いしていたかったなぁ、などと思い、もう一度本に囲まれた自室を見回します。
でも、仕方がない。
社会的にいい大人なんだし、わかっちゃったことは事実だから、受け入れなければいけない。
受け入れてから、今後の戦略を練らないと、本当に一作品だけで終わっちゃうかもしれない。
どうしようかな。
三十分ほど唸ってから、ブラックコーヒーを飲み干しました。
とっておきのお菓子はすでにお皿から消え、名残の砂糖だけがキラキラと輝いています。
「……まずは、才能の乏しさにショックを受けてる場合じゃないよね」
背筋を伸ばしました。
――そうそう。「山月記」の李徴のセリフにもあったじゃないの。
「才能的にはおれよりもはるかに下でありながら、それを一生懸命に磨いたために、立派な漢詩人となった者がいくらでもいるのだ」
うんうん、それそれ。
モブでもがんばって磨けば、何とかなる人も大勢いるってことだよね。
小説はいちばんを決めるものじゃないはずだから、最初は筆力はなくてもいいんだよ。(あったほうがいいから、のちのち努力はしていきたい)
となれば、受賞したあと、爆発的に売れることはないから、一般社会での仕事はずっと持っていよう。
それをこなしつつ、なけなしの筆力で、作品を仕上げる方向性で行こう。
……こうして、「特に才能が豊かでもない新米作家の、生存戦略プラン」が開始されたのでした。
(ちなみに、上のほうで「モブ」と言ってますが、一生涯かけて技術を磨いて、立派な詩人になることができるのなら、それもすごい才能だなーと思います。
むしろその生き方に惹かれてしまうので、山月記のモブは尊い、と思うのでした。)
>2へ続きます
>3話以降はこちらです
