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未来の出来事を妄想したら、クズ男に辿り着いて感謝していた話【ラストワード2026】

【注意】※この物語は、2/3を予想(妄想)して書いているので、一部フィクションが含まれています。

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2026年2月3日。この日は、自著担当の岡本さんと、Xのイベントスペースで「【出版記念対談】商業出版の苦労について」が開催される。

2/3 イベントやります!リマインダー登録よろしくお願いします。

ファシリテーターの彼です

松田さんもありがとう

 現役ライターが「商業出版」という未知の世界へ足を踏み入れた先に何を見たのか——その舞台裏を赤裸々に語る予定だ。

……とはいえ、無事にちゃんと話せるのだろうか。イベント前はいつも、胸がざわついて落ち着かない。そんな日は、朝になるとつい不安に負けてタロットカードを引いてしまう。

 こういう日に限って「死神」だの「悪魔」だの、背中に刀10本刺さってる「ソードの10」だのが出てきて、「引かなきゃよかった」と後悔する。それにしても、タロットに背中を押されたくて引いてるのに、なんで逆に刺されてんのよ。

 私は、トークイベントに限らず、インタビューのお仕事の前に必ずやることがある。それは、頭の中で軽くシミュレーションをしておくこと。大枠だけでもイメージしておくと、不思議とその日を安心して迎えられるからだ。私はゆっくりと、頭の中で「2/3のスペース」をイメージしていく。

「みくさん、本日はよろしくお願いします。今回のトークイベントでは、本を書く上で苦労したことなどを伺えたらと思います」

「はい、よろしくお願いします」

「では早速テーマの本題に触れていきたいのですが、みくさんが本を書くにあたり、一番苦労したことはどんなことでしょう?」

 ふと宙を仰ぐと、視界の端に、娘が0歳のころの写真が映る。思い返せば、筆が乗る瞬間に限って、娘が寄ってきて私の手を引っ張っていった。

 あの子は昔から、悪戯っ子だ。

 その始まりは、まだ妊活中の頃にも訪れた。夢の中で、見知らぬ女の子が私をくすぐってきたのだ。顔は見えないのに、体と手足だけははっきりと見える。女の子のケラケラと高らかな笑い声だけが妙に印象的で、今でも明瞭に覚えている。

 娘が成長するにつれ、私は驚いた。なんと——あの夢の笑い声と、まったく同じだったのだ。どうやら娘は、生まれる前から私に会いにきて、悪戯をしにきたらしい。

 仕事中に悪戯されると「今は勘弁して」と言いたくなるけれども。

 同時に、あの夢のシーンを思い出しては、生まれる前から私に触れようとしてくれた小さな手のことを思い、強く拒むことがどうしてもできない。

 娘は5歳になった。まだ言葉は話せない。

 私が出産したのは41歳。若く子どもを産んだお母さんより、一緒に過ごせる時間は決して長くない。私自身も人生の折り返し地点に立ち、「残された時間で何ができるのか」を考えるようになった。

 朝井リョウさんの小説にも書かれていたっけ——今まで頑張ってきたこと以上に、取り組んでこなかったことが後から襲ってくる、と。

 前だけを見て突っ走り、「自分さえよければいい」で生きてきた私が、今になって急に娘のこれからが心配になる。

「私は、あの子のために何ができるんだろう」

 そんな問いを、年を追うごとに頻繁に繰り返すようになった。

「……あのう、みくさん。大丈夫でしょうか?ちょっとトーク止まってますけど」

「す、すいません。つい、娘のことを回想してしまって」

しまった。私の悪い癖だ。話している途中で、ふっと別の世界にトリップしてしまう。

「娘さんのことを思うと、溢れる想いもありますよね……。では、話を戻しましょうか。みくさんにとって『本を書く』って、なんですか?」

 岡本さんは、やっぱり編集者だ。私が脱線しかけると、いつも自然に「軸」へ戻してくれる。あの人がいなければ、この本は生まれなかったし、このイベントの舞台にも立てなかった。本当に感謝している。

 そして、今ここにいる縁を辿ると、5年前の「クズ男エッセイコンテスト」に辿り着く。

 あの受賞がなければ、岡本さんとも出会っていないし、出版の話もなかった。

 ただ、ここでひとつ懺悔をしたい。私は外で何度も「クズ男エッセイコンテスト」の話をしてきたせいで、「クズ男の人」と呼ばれることも多い。

 でも実は、クズ男とそんなに付き合っていない。将棋の駒男とも——たった1回しか会っていない。理由は、「俺の将棋の駒(愛人)にならないか?」と誘われ、丁重にお断りしたら音信不通になったからだ。

 あの時の、将棋の駒男さん。勝手に「クズ男」と呼び、エッセイにして本当に申し訳ない。

 でも、人生は不思議だ。その一度きりの出会いが、私に色んな奇跡を呼び、今私はスペースイベントを迎えている。

 娘。岡本さん。将棋のクズ男。その縁に感謝しつつ、私は今日も前を向いて話そうと思う。

(1919文字)

【完】


【あとがき& 拝啓ヱリさんへ】

 こちらの記事は、青山ヱリさんの個人企画「ラストワード2026」に参加しています。

#ラストワード2026

 ヱリさんは、創作大賞2024(note主催)朝日新聞出版賞を受賞後、「あなたの四月を知らないから」を出版されています。

とっても素敵な小説で、何度も読み直しました。「恋愛小説を書きたい方」は必見だと思います。こんなに美しく、女性の心の葛藤を丁寧に書けるようになりたいといつも憧れています。

私の感想文はこちらです。感想を書くのに、反芻しすぎて1年かかっています。(重たい笑)

 企画のテーマは、「自由に書けるのはこれが最後」というメンタルで書くことでした。そう言われてふと思い出したのは、2月3日のイベントのこと。今、私は「当日、何を話そう」ばかり考えていて、気づけば娘の将来のことにも思いを馳せていました。

 もしかすると、本当に「これが最後」と感じた瞬間、人は案外難しいことなんて考えないのかもしれません。

 そういえば、最近亡くなった義理のおじさんの最後の言葉は「寿司食いたい」でした。そのエピソードを聞いたとき、思わず自分は「最後に何を食べたいんだろう」と考えてしまいました。うーん。私は「食べる」より「note」に何か書いてるかもしれない。

 「書くのが最後」と思った瞬間、上手いことを書こうなんて気持ちはどこかへ消えて、ふっと浮かんだことをそのまま綴っていました。

 だから今日の記事は、あたりさわりのない表現ばかりかもしれません。でも、案外こういうシンプルさも悪くないですね。

余談 拝啓 あの日出会ったクズ男へ

 余談ですが、クズ男の話をするとき、私はいつも少しだけ申し訳なさを感じています。

 彼は、友達の会社の人で、外向きは「モデル級美女の愛妻家&西島秀俊似のキラキライケメンお父さん」(1回しか検索したことないけど、Facebookを好奇心で検索したら出てきて、びっくりしちゃいました(笑))。

 たった1回しか会っていない、ちょっと喋った程度の関係なのに……勝手に「クズ男」と呼び、エッセイにして受賞までしてしまい……本当にすいませんでした。

 また、今回「クズ男エッセイコンテスト受賞した時の、X投稿を振り返ったら、夫が「義弟(2回離婚歴あり)」のエピソード交えて、濃い返信しているのを見て、ちょっと笑ってしまいました。

我が夫ながら「なんか、返信めんどくせぇわ……」と思って、返信に困った記憶がある。

 でも、その一度きりの出会いが、今のさまざまな縁につながっているのだから、人生は不思議なものです。縁に感謝ですね。

 今回の企画で、「自分が大切にしていることって何だろう」と改めて振り返るきっかけをもらいました。

 最後に残るのは、派手な言葉でも、完璧な文章でもなくて、ただ「いま思っていること」や「自分が大事にしてること」「周囲への感謝」みたいなものかもしれません。

 改めてヱリさん、この度は貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました。

【完】


【告知】

書籍「書く人生のはじめかた 文章力より大切な“書き続ける”ための心構え」発売開始しました。

Xなどで色々と感想いただきありがとうございます。コッシ―さん、なんと「はじめに(一万二千文字超えてるのおかしい)」のところで、私の筆圧に圧倒されてしまったそうですが……

最後まではたして読めたのでしょうか……感想楽しみにしてます!


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