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【64歳剣崎宗一郎の詐欺撲滅小説シリーズ】『パンドラ・ファイル』(その11)『見えない支配者(ゴースト・ペアレント) ~親という名のシステム~』【第三部:愛という名の解毒】第5章:獅子の反逆

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 リビングを埋め尽くすデジタル機器の悲鳴のような電子音が止んだ。
 Bitが仕掛けたシステム・クラッシュによって、彼女の「支配のネットワーク」は完全に遮断されたのだ。モニターに映し出されていたのは、彼女がこれまで息子・悟に対して送り続けてきた「罪悪感を植え付けるための言葉」のログだった。

「お母ちゃん、もうやめてくれ」
 リビングの入り口に、悟が立っていた。彼は震えながらも、初めて自分の意志で母親を見下ろしている。
「全部、わかったんだ。妹に送ったメッセージも、僕を縛り付けていた仕組みも、全部……」

「……何のこと? 私は、ただ悟を愛していただけよ!」
 節子は床に這いつくばったまま、悲鳴のように叫んだ。
「あんたたちが、私を裏切るなんて! 私は、あなたを一番に考えてきたのに!」

 その時、静かにリビングの扉が開き、剣崎宗一郎が足を踏み入れた。
 彼の存在感は、この部屋の歪んだ空気さえも切り裂くほどに鋭い。

「節子さん。あなたは『愛』という言葉の定義を、致命的に誤解している」

 剣崎は、狂乱する彼女の前に立つと、静かな声で告げた。
「愛とは、相手の幸福を願うことではない。相手が、あなたとは別の『独立した個人』であることを認めることだ。……あなたは悟君を愛したのではない。自分の孤独を埋めるための『システム』として、悟君を構築コンストラクトしただけだ」

「私は……愛していたのよ……!」
「なら、なぜ彼が笑顔になろうとすると、その笑顔を消そうとした? 妹さんを幸せにしながら、なぜ悟君には『不幸であること』を強いたんだ? それは愛じゃない、ただの『自己肯定の補強』だ」

 剣崎は、かつての自分が妻に対して、一時期ではあったがおこなっていた傲慢さを、彼女の姿に重ねていた。
 自分もまた、かつての一時期は「正しい論理」という杖を振り回して、妻の小さな夢もささやかな願いも「非合理的だ」と切り捨ててしまっていたことがあったのだ。
 あの時の妻は、今の悟と同じ表情をしていたはずだ。

「あなたが今日まで抱えてきたその苦しみも、元を正せばあなたの親から受け継いだ『支配のバグ』だ。……だが、節子さん。そのバグを息子にコピーし続けるのは、今日で終わりだ」

「……どうしろというのよ! 私のこの孤独を、誰が癒やしてくれるの!」

「自分で癒やすのです!!」
 剣崎は言い切った。
「他人の人生に寄生して自分の穴を埋めるのは、もうやめなさい。それは、あなたにとっても呪いであり、息子さんにとっても地獄だ」

 剣崎が指を鳴らすと、Bitがリビングの全モニターに一つの動画を流した。
 それは、悟がかつて隠れて撮影していた、母親に怒鳴られながらも「お母さん、ありがとう」と感謝を伝えようとしていた過去の映像だった。
 純粋に母親を愛していた少年の姿。

 節子の瞳から、力が抜けていった。
 支配の欲求は、鏡に映る自分の醜い姿を見て、霧散していく。
 彼女は、かつて自分が否定した「息子の純粋さ」の記録を見て、初めて自分が「モンスター」であったことを理解したのだ。

「……あの子は、こんなに、私を……」
 彼女は顔を覆い、子供のように泣き出した。
 それは、支配者としての仮面が剥がれ落ちた、ただの老女の悔恨の涙だった。

 剣崎は背を向けた。
 「家族」という名のシステムは、論理だけでは回らない。だが、一度壊れたシステムは、個々人が自立することでしか再起動できないのだ。

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