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【学校が教えないお金の講座の連載小説その1】『学校をサボった僕は、秘密のお金の授業を受けることにした。』第2話:魔法のチケットと、消える一万円

このお話の第1話から読む

 甘いココアの湯気の向こうで、クシャッとした一万円札が、テーブルの上に静かに横たわっている。

 僕は生唾を飲み込んで、その紙切れを見つめた。

「クイズ、ですか……?
 これが、一万円札じゃないなら、一体何なんですか?」

 レンさんはメガネの位置をくいっと直すと、棚から真っ白なノートの切れ端をちぎって、ボールペンで『一万円』と大きく書いた。
 そして、それを僕に差し出す。

「ハルトくん。
 これで、今大人気のあのゲームソフト、買えると思うかい?」

「え……無理です。
 ただの手書きの落書きだし、誰も受け取ってくれないから」

「そうだね。
 じゃあ、こっちの、国が印刷した一万円札なら買える。なぜだと思う?」

「それは……みんなが『これは一万円の価値がある』って信じているから、ですか?」

 僕の答えを聞いて、レンさんは
 「素晴らしい、大正解だ!」
 ・・・と、手を叩いた。

「そう、お金の正体はね、ただの信用しんようのチケット』なんだ。
 みんながその紙切れを信じているから、いろんなものと交換できる。
 お金そのものには、実は、何の価値もないんだよ」

 レンさんは、ノートにササッとジュースの缶の絵を描き始めた。

「例えば、君が大好きなジュースが、1缶100円だとしよう。
 手元に一万円あれば、100缶買えるよね。
 でもね、もし世の中のすべてのジュースが、値上がりして200円になったらどうなる?」

「ええと……50缶しか、買えなくなります」

「その通り。じゃあ質問だ。
 君の持っている一万円札の『数字』は、減ったかい?」

「いいえ。
 一万円は、一万円のままです」

「数字は減っていない。
 でも、買えるジュースの量は半分に減ってしまった。
 つまり、君の一万円札の『価値』は、いつの間にか半分に縮んでしまったということなんだ。
 これを通貨の目減り、つまりは、難しい言葉だけど、
 『インフレ
 ・・・って、呼ぶんだよ」

 レンさんの言葉が、僕の頭の中でカチリと音を立てて繋がった。

「一万円の価値が、縮む……?」

「そう。
 だからね、学校の先生とか君の親御さんがよく言う、
 『貯金しなさい、貯金が一番安全だから』
 ・・・っていう言葉は、実は、大きな間違いなんだ。
 お金を机の引き出しにじっと閉じ込めている間に、そのお金の魔法(価値)は、どんどん消えていっているんだからね」

 僕は、頭を強く殴られたような気がした。
 僕の家のお父さんもお母さんも、一生懸命働いたお金を、
 「貯金が一番安全だから」
 ・・・って、銀行に預けっぱなしにしている。

「お金をただ持っているだけじゃ、どんどん損をしていく、って。
 じゃあ、どうすればいいんですか……?」

 不安そうな僕の顔を見て、レンさんは優しく微笑んだ。

「お金はね、貯めるためのものじゃない。
 『別の素晴らしい価値』と交換するために使うものなんだ。
 本を読んで知識にする、新しい場所に冒険に行く、誰かを喜ばせるプレゼントを買う。
 ・・・そうやって、自分の世界を広げるためにチケットを使う。
 それこそが、お金の本当の正しい使い方なんだよ」

 レンさんはそう言って、僕の頭をポンポンと叩いた。

 ココアを飲み干した僕は、「ありがとうございました」とお辞儀をして、お店の外に出た。

 いつの間にか、お昼過ぎの太陽が、路地裏の通りを明るく照らしていた。

 サボってしまった罪悪感は、いつの間にか消えていた。
 それどころか、いつも見慣れているはずの街の景色が、まるで別の世界みたいに、キラキラと、光って見えた。

「お金は、貯めるものじゃなくて、価値と交換するもの……」

 僕は自分の手のひらを見つめた。
 僕も、誰かを喜ばせるような「価値」を、自分の手で作ることができるんだろうか。

 でも、次の瞬間、新たな疑問が頭に浮かんだ。
「そもそも、僕たちみたいな子どもは、どうやってその交換チケットを手に入れたらいいんだろう??」

 学校のチャイムの音が、遠くから聞こえたような気がした。

第3話へ続く