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食べてくれる、それだけでうれしい


退院が、また延びました。
母の入院生活は、予定通りにはいきません。

姉と私は、毎日面会に通っています。
決まった時間、同じ廊下、同じ病室。
けれど、母の様子は日々少しずつ違います。
記憶があいまいな日もあれば、何事もなく話せる日もある。

母は、冷たい水を欲しがります。
そのため、水筒に氷を入れて持っていきます。
そして、これだけは口にしてくれる果物のゼリー。
凍らせて、少しずつ溶けるものを持参します。

薬の副作用なのか、体調の変化なのか。
母は、甘いものを受け付けなくなりました。
高栄養食を持って行っても、ほとんど手をつけません。
病院食も、あまり食べていないと聞きました。

唯一、食べたがるのは漬物です。
ただし、たくさんは嫌がります。
姉や私が、毎日少しずつ持っていく。
それが、今のちょうどいい量です。

「とにかく、食べてくれればいい」
それだけを考える日々です。

そんなある日、スーパーで母の好きな「干しタラ」を見つけました。
むき身で、半生。
かなり塩辛いものです。

これなら食べてくれるかもしれない。
そう思い、少量を手でほぐして持って行きました。
すると母は、それをおかゆに入れて食べると言いました。

翌日、面会に行くと、
予想外にもタラは完食されていました。
つまり、おかゆもそれなりに食べてくれたということです。

うれしくて、いったん家に戻り、
あわててまたタラを届けました。

母は申し訳なさそうにしながらも、
どこかうれしそうでした。
「今日からは、毎日用意しよう」
そう思いました。

さらに、スーパーで塩辛いサケの切り身も見つけました。
これも、きっと食べてくれるでしょう。

食事に手を付けてくれる“引き金”を見つけられたこと。
それが、今は何よりうれしいのです。

こういうことは、
一緒に暮らしてきた家族でなければ、きっと分かりません。

小さな工夫と、小さな発見。
それを積み重ねながら、今日も面会に向かいます。

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