「誰でもできる仕事」ほど、誰も教えなくなる
「これは簡単だから、誰でもできます」
現場では、ときどきこんな言葉が出る。
難しい機械を使うわけでもない。特別な資格もいらない。少し教えれば覚えられる。
聞いていると、とても安心できる仕事に思える。
ところが、
「じゃあ、今やっている人が二人とも休んだら、誰ができますか」
と考えてみると、急に人数が減ることがある。
誰でもできるはずなのに、いつも同じ人がやっている。
最近、この状態が少し気になっている。
簡単な仕事は、教育の順番が後ろになる
毎日行っているピッキング作業がある。
二人でやって、一時間ほど。
必要な部品をそろえ、数量を確認し、後の組立が始められるように準備する。
作業だけを見れば、特殊な技能が必要な仕事ではない。
だからこそ、
「これは他の人でもできる」
という話になりやすい。
私もそう思っていた。
ただ実際には、いつもの人がやった方が早い。
場所を知っている。数量の見方も分かっている。次に何を用意するかも迷わない。
毎日の仕事なので、わざわざ別の人を入れて教えるより、その二人で終わらせた方が手っ取り早い。
そうやって日々は普通に回る。
そして、他の人が覚える機会はなかなか来ない。
難しい仕事なら「教育しなければ」と考える。
機械の操作なら、勝手に触らせるわけにはいかない。品質に関わる仕事なら、できるところまで確認してから任せる。
ところが簡単な仕事は、
「まあ、そのうち教えればいい」
となりやすい。
その「そのうち」が、なかなかやって来ない。
「できる」と「やったことがある」は違う
ピッキングの話をしていて、私は少し引っかかった。
確かに、やり方を覚えれば多くの人ができる。
でも、それはまだ「誰でもできる仕事」ではないのではないか。
誰でも覚えられそうな仕事であるだけだ。
実際に経験した人が二人しかいなければ、その時点では二人の仕事である。
これは言葉遊びのようだけれど、現場では意外と差が大きい。
「簡単だから大丈夫」と思っていると、教育する必要性を感じにくい。
ところが人が休んだ時や、別のところへ応援に出したい時になって、
「あれ、他にできる人がいない」
となる。
難しい仕事が属人化するのは分かりやすい。
職人の技術だったり、判断の多い仕事だったりするからだ。
でも、簡単な仕事まで同じ人に固定されていると、少しもったいない。
できる人を増やしやすいはずの仕事で、できる人を増やしていないことになる。
一度に全員へ教えなくてもいい
そこで、ピッキング作業は一人ずつ交代して覚えてもらえばいいのではないかと考えた。
二人とも替えてしまえば、教える人がいなくなる。
いつもの二人で続ければ、何も変わらない。
ならば、一人は分かっている人、一人はまだ慣れていない人にする。
何日かやったら、また別の人に替える。
毎日ある仕事なら、それだけでも少しずつ経験者は増えていく。
特別な研修日を作る必要もない。
大げさなOJT表を一枚増やさなくてもいい。
いつもの仕事の席を、ときどき一つ空けるだけだ。
私はこういうやり方の方が、現場には合っている気がしている。
忙しい中で「教育の時間を作りましょう」と言っても、なかなか作れない。
でも、もともと毎日一時間使っている仕事なら、その時間の中に覚える人を入れることはできる。
仕事を止めて教育するのではなく、仕事をしながら、できる人を少しずつ増やす。
その方が現実的だと思う。
簡単だからこそ、固定されていることに気づきにくい
会社には、こういう仕事が案外あるのではないだろうか。
大きな技術ではない。
誰かに自慢するような仕事でもない。
それでも毎日、誰かがやっている。
その人がいるので問題にならない。
早く終わるので改善対象にもならない。
結果として、ずっと同じ人の仕事になる。
私は以前なら、こういう状態をあまり気にしなかったと思う。
難しい仕事の多能工化や技術継承の方が重要に見えるからだ。
でも、日々の仕事を見ていると、現場を助けるのは必ずしも難しい技能だけではない。
一時間の準備を代われる。
簡単な確認を引き受けられる。
誰かが休んだ時に、その場所へ自然に入れる。
そういう人が一人増えるだけでも、現場の動き方は変わる。
「誰でもできる」は、難易度の話ではないのかもしれない
最近は、
「これは誰でもできます」
と聞くと、
「何人やったことがありますか」
の方が気になる。
簡単かどうかと、代われる人がいるかどうかは別の話だからだ。
難しくなくても、一度も教わっていなければできない。
説明を受けても、実際にやったことがなければ戸惑うこともある。
逆に、一度経験しておけば、
「ああ、あれですね」
で入れる仕事もある。
「誰でもできる仕事」という言葉は、便利だ。
でも、言っているだけでは誰でもできるようにはならない。
むしろ簡単だと思うほど、教えることを忘れやすい。
私の工場にも、まだそういう仕事があるのだと思う。
難しい仕事ばかりを教育対象として見るのではなく、
簡単なのに、なぜか毎回同じ人がやっている仕事。
そこを見てみると、意外と簡単に増やせる「できる人」が残っているのかもしれない。
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担当者が休んだ日に、その仕事の本当の形が見える
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