製造業向け|決めた理由が残っていないルールは、守り方が人によって変わる
「この確認は、何のためにやっているんですか」
新人や、別の部署から来た人に聞かれることがある。
こちらとしては、当たり前に続けてきた作業である。
毎回ここで確認する。
この順番で進める。
終わったら印を付ける。
ところが、あらためて理由を聞かれると、少し言葉に詰まる。
「前からそうしているから」
「昔、何かあったんじゃないかな」
「決まりだから、とりあえずやっておいて」
こう答えてしまうと、その決まりは急に古い家訓のようになる。
誰も由来は知らない。
ただ、破ると何となく怒られそうなので守っている。
現場には、そういうルールが意外と残っている。
同じ決まりなのに、説明がそろわない
現場で人の動きを見ていると、同じ決まりを全員が同じ意味で受け取っているとは限らない。
ある人は、品質を守るための重要な確認だと考えている。
別の人は、記録を残すための作業だと思っている。
忙しい時には省いても問題ない、と受け取っている人もいる。
誰かがふざけているわけではない。
それぞれが、自分の経験や先輩から教わった内容を基に判断している。
その結果、同じ用紙を使い、同じ場所に印を付けていても、実際に見ているものが違う。
表面だけを見れば、全員がルールを守っている。
ところが不具合が起きて確認すると、
「そこまで見るとは聞いていません」
「私は、この部分を確認する決まりだと思っていました」
「前の人は、そこまでやっていませんでした」
という話になる。
守る意識がなかったというより、何を守るための決まりなのかが、人によって違っていたのだと思う。
ルールが生まれた時には、何かがあったはず
多くの決まりは、最初から意味なく作られたわけではない。
以前、不良が後ろの工程まで流れた。
確認する場所が悪くて、見落としが起きた。
誰が判断するのか曖昧で、仕事が止まった。
同じ道具を探す時間が何度も発生した。
何か困ったことがあり、それを繰り返さないために方法を変えた。
作られた当時は、きっと話し合いもあったのだと思う。
なぜ必要なのか。
何を防ぎたいのか。
どこで止めればよいのか。
その時にいた人たちは、背景まで分かっている。
だから細かく書かれていなくても、同じように判断できる。
しかし、人が入れ替わると少しずつ薄くなる。
最初は「この不具合を防ぐために確認する」だったものが、「ここを確認する」に変わる。
その次には、「ここに丸を付ける」だけが残る。
最後には、丸を付けた理由も分からないまま、空欄を埋める作業になる。
決まりは残っている。
けれど、中に入っていた意味だけが先にいなくなっている。
理由が分からないと、例外を判断できない
通常の仕事だけなら、それでも回ることがある。
いつもと同じ製品。
いつもの担当者。
慣れた作業の流れ。
決められた通りになぞっていれば、大きな問題にはならない。
困るのは、少し条件が変わった時である。
材料が変わった。
作る順番が変わった。
応援者が入った。
いつもとは違う工程を通る。
こういう時、作業の目的を分かっている人は、どこを変えてはいけないか考えられる。
反対に、動作だけを覚えている人は迷う。
決められた通りに続けるのか。
今回は省いてよいのか。
別の場所で確認すべきなのか。
判断できないので、先輩へ聞く。
聞かれた先輩も、理由までは知らない。
最後は、
「今までこうしていたから、そのままでいいんじゃない」
となる。
これでは、ルールが判断を助けるのではなく、考えないための言葉になってしまう。
私も、やることだけを残していた
振り返ると、私も決まりを作る時に、行動ばかりを残していたことがある。
どこで確認するか。
誰が記入するか。
いつ報告するか。
そこは考える。
一方で、なぜその方法にしたのか、何を防げれば役目を果たしたことになるのかまでは、あまり残してこなかった。
決めた時に説明したので、伝わっているつもりになっていたのだと思う。
ただ、口で説明したことは、人が変われば消えていく。
最初に聞いた人が、次の人へ同じように伝えるとも限らない。
途中で少し短くなり、別の解釈が加わり、最後には「決まりだから」に変わる。
伝言ゲームなら、最後の人が面白いことを言って笑って終われる。
現場のルールは、そうはいかない。
最後に違うものが伝われば、仕上がりや安全、納期に影響する。
長い説明書を作りたいわけではない
すべての決まりに、長い制定理由を書く必要はないと思う。
文章が増えすぎれば、結局誰も読まなくなる。
残したいのは、立派な説明ではなく、判断の芯になる短い背景である。
何の不具合を防ぐためなのか。
どの状態になったら止めるのか。
どこから先は、責任者へ戻すのか。
そのくらいが分かれば、担当者が変わっても意味を受け取りやすい。
状況が変わった時にも、守るべき部分と見直せる部分を分けられる。
理由が残っていれば、古くなった決まりを見直すこともできる。
反対に、目的が分からなければ、必要なものまで捨ててしまうか、役目を終えたものを永遠に守り続けるしかない。
どちらも少し怖い。
守らせる前に、意味が引き継がれているか
ルールの運用が人によって違うと、つい本人の姿勢を見たくなる。
真面目に守っているか。
勝手な判断をしていないか。
教えた通りにやっているか。
もちろん、決めたことを軽く扱ってよいわけではない。
ただ、同じ職場の中で説明がばらばらなら、個人の問題だけではないと思う。
何を防ぐための決まりなのか。
なぜ、この順番なのか。
以前は何が起きていたのか。
その部分が、途中で抜け落ちていなかったか。
現場の決まりは、命令だけを残しても長くは機能しない。
理由が消えれば、人は自分なりの意味を付け始める。
そして、自分なりの意味が増えるほど、同じルールの守り方は少しずつ変わっていく。
人によって運用が違うと感じた時、すぐに「守らない人」の話にする前に、一度見ておきたい。
その決まりは、やり方だけでなく、決めた理由まで引き継がれているだろうか。
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