神のデス・ギフト-F- 第5話 工場疲れで闇堕ち〜Tの視察が俺の心をポキっと折る
これは、神から贈られた“死にかけるほどのギフト”の開封記録。 地獄を笑い、整えを始めた男の実話。
俺は工場の男になってきていた。
すでに東京で脳を中心に使っていた事を忘れ、
筋肉を有効に活用する人間に仕上がっていたのだ。
心「パワーこそ正義、この筋肉は鎧だ、ウオー」
鉄を溶かす事も慣れてきて、汚れも匂いも心地いい。
周りの不良たちとも仲良くなってきた。
20代前半の不良たちに仕事を教わりながら、人生経験を教える時もあった。
俺は馴染んでいた。
相変わらず、ハンマーで石膏を叩き割ろうと思っていたその最中、
何かが近づいてきた。
聞き覚えがある声が俺の耳に入ってきたのだ。
心「あぁ、神よ乗っている時、納得して仕事をしている時、精神攻撃はやめてくれ」
俺の心は精神異常攻撃を受けた状態になった。
白菜の漬け樽の中で、白菜の葉が一枚取れて浮いた様だった。

俺をこの会社によくわからなく入社させた総務部の親友T登場
親友Tはこの会社に俺の意見もなく入社させた親友だ。
給料はもらえるし、やることもできたし、感謝している。
でも、抜けている天然の悪意のないバグった天使。
俺とTは入社の日以来一度も会っていない。
俺が筋肉限界、精神崩壊、疲れすぎでTの事を一瞬で忘れていたからだ。
俺がまさに500度の石膏に強烈ハンマーを打ち付けようとした時、
Tの声がした。
T「おー!さまになってるな」
右手を大きくあげて、見にきた様だ。
俺「おう、久しぶり」
心「石膏は、ハァ、ハァ、高温のうちに壊さないと芯がダメになるから、かまってられねぇ」
T「大変そうだな〜俺にはムリだわw」
バシバシ叩いている中でTの隣に恰幅のいいおっさんを見つけた。
T「この人は一課長だよ。この巨大な工場の一角の長だよ。えへ」
課長「こいつがお前の友達ね。細っせーな」
心「なんか嫌なやつ」
そんな時、俺の師匠職長Kが通りかかった。
K「あ、課長。お疲れ様です。こんなところまで珍しい。どうしたんですか?」
俺の偉大で最強で屈強で誰にも屈しない職長Kが、ヘコヘコしている。
聞いたところ、課長は職長Kの同期らしい。
課長は腕はまぁまぁだが、口がうまいらしく、職長Kの3階級も上にいるのだそうだ。
まあ、それも俺を悲しませ、白菜の塩分濃度が上がるには十分だったが、さらに引いてしまったことがある。
なんと、総務部Tですら、タメ語で職長Kと話している。
職長Kは丁寧語で話している。
心「なんだ、Tお前は偉くはないだろう?やめてくれ職長K」
どんどん俺のつけ汁が濁っていくのが分かった。濁りも出ていた。
邪悪な気持ちになる俺は、決定的な違いを見つけてしまった。
心「なんだTの綺麗にパリッとしている汚れなしの作業服は?ヘルメットにも傷が一つもない。安全靴も履いていない」
ああ、人間同士だから少しわかる。
天使といえどバグってるTは俺の前に来て優越感を得たかったのかもしれない。
それと引き換えに、俺の汗で汚く黒くなっ作業着。
傷だらけのヘルメット、水虫が住んでいる安全靴。
一日で使えなくなる作業手袋。
同じ社員なのに、雇い主、雇われの絵が俺には重く、気が遠くなって感じられた。
親友Tはただ俺を見て、課長と職長Kと話しただけで帰って行った。
遠くに見える綺麗な服装のTと課長。
この環境の中で爽やかに笑い合っている。
遠くで見るほど、俺との距離を再確認することとなる。
心「なんだよ、なんだよ、なんでやる気無くさせるんだよ」

俺、闇堕ち、本当の闇に落ちる
【闇の入り口】
人間小さいことで不貞腐れる。
ちょっと気になると、だんだん心に染み渡って不安が浸透してくる。
俺は、親友Tと仲の良い友達だと思っていたのに、
親友Tはこの会社に俺を入れて優越感に浸っていた。
かもしれない。
とかじゃない。悪い勘は俺の東京の社畜時代の察知能力で完璧だから。
俺はだんだん闇の世界に入っていく様だった。
きつい肉体労働がそれに拍車をかけていた。
今まではただの漬物だった俺が、酒粕の深漬けの香りが出始めた。
俺は、ふるさとに帰ってきて父と最初に飲み屋街に連れて行ってもらった時に訪れたスナックを思い出した。
心「あそこなら、女性と楽しく話しながら酒が飲めてストレス発散できる」
俺は四日出社して二日休むシフト制だが、その四日目にスナックに通う様になった。
お気に入りの同い年の女性Yさんと仲良くなったからだ。
Yさんは石田ゆりこにそっくりな優しい綺麗系。
でも、ツッコミも強く話も聞いてくれるから相談もできる。
もちろん、ほとんどの客はYさん目当てであった。
店員全員、もちろんママも大ママも俺の父を知っていて、俺はその息子と言う事ですぐ覚えてもらえた。
四日に一回くるし常連だしな。
一人で大体20時から1時まで5時間くらいは飲んで話してカラオケをしていた。
Yさんが好きなバラードのラブソングを毎回歌うのが俺の定番。
俺「Yさんのために歌ってるんだよ」
Y「うそだー」
寝ちゃう時もあるし、Yさんに店を閉めると起こされることもあった。
Y「起きて。いつもの代行さん呼んどいたよ」
俺「むにゃむにゃ。ん!Yさん嫁だったら幸せだな〜」
Y「なに言ってんだかw」
だいたい一日で焼酎のボトルを一本飲むのもざら。
唯一、心の鎖を外し、前頭前野のブレーキシステムを開放できるリラックスタイムだ。
疲れがない日はYさんと同伴で19時から焼肉に行って一緒に店にいくこともあった。
同伴すると、同伴の相手がほぼ専属でついてくれるので、金土などはよく同伴してYさんを独占していた。
半年くらい店に通い同伴もそこそこしていた時、俺はYさんを好きになっていた。
Yさんはシングルマザーで二人の子供を育てている。
(余談だが、この時から20年、Yさんはこの店のママになった。今も営業中)
焼肉店を出て店に向かうくらい県道を歩いている時、
俺「二人の子供、俺が面倒見るから結婚前提で付き合って」
ぶーーーーん
Y「え?何?今トラック通って聞こえなかったよ」
2回は言えない。
これは、神が『やめておけ』というシグナルだ。
そう俺は自分を納得させた。
俺「なんでもないよ。Yさんかわいいなって言っただけ」
心「よえー。俺。チャンス逃したかもな」
俺たちは店に着いてしまい、ドアを開けた。
チリンチリン
ママ「おかえりー」
Y「じゃあ、今日はL字の角の席に座っててね」

【闇の世界で啓示】
この日はカウンタのL字部分の角で飲んでいた。
これが、神のイタズラの席順だった。
L字の角で飲んでいるから、隣の客が右斜め前だ。顔も見える。
また、同伴したYが俺の前に立っていてるので、そいつが話しかける。
しかも頭を振りながら酔っている危険なやつだった。
30歳くらいの、ロン毛のヒゲのちょっと不良系だ。
同伴代をお店に払ってYといるのに、このヤバい男はなんでも俺たちの話に入ってくる。
ヤバ男「あー俺それ知ってる。俺得意だよ。なんてたって俺は・・・」
ヤバ男「ちょっと話変わっていい?この前の俺はすごい・・・」
ヤバ男「お前、なんの仕事してんだ?俺は社長だぞ・・・」
俺は困ったと思いながら、とりあえず丁寧に話を聞いていた。
しかし、このヤバ男は徐々に絡み上戸、怒り上戸になっていった。
ヤバ男「お前の話おもしろくねーわ」
ヤバ男「お前人生おわってんじゃね?」
ヤバ男「負け組って自覚あんの?
ヤバ男「俺、モテまくるよ。お前と違ってな。はははは」
俺「ちょっと言葉が過ぎますって」
いくら控えめな俺でも、ちょっとイラッときていた。
俺は負け組でもない。人生は続く。最後に勝てれば勝ちだ。
そう思っている。
Yさんも、ボコボコにされてる俺を助けようと手を差し伸べるが、もう俺はヤバ男のターゲットにされていて離れない。
俺「さっきから聞いてるんですけど、なんなんですかアンタは!?」
咄嗟に、いや流石に口から反論が出てしまった。
俺は仕事でも何でも自分がダメなのは知っていて、癒されにきているんだ。
その時、ヤバ男は驚きの行動をした。あれは忘れない。
ヤバ男「あんー。お前強いんかい?強いのかって聞いてんだよ!!」
心「くそ。筋肉はおそらく凄まじく強いが、実戦はない」
ヤバ男が俺のTシャツの襟をつかみTシャツが破れる。
周りの椅子が飛び散る。
キャー なんだー
店に悲鳴が響き渡った。
俺は髪の毛を掴まれて、上半身裸で店の外に引きづられて行った。
もう、温厚な俺もさすがにブチ切れた。
一回、こいつをやっつけよう。
おでこを合わせる様にしながら、ヤバ男が圧をかける。
ヤバ男「おうおう、やれんのか?勝てんのか?逃げんなよ?」
俺「なんだと。秒でぶっ殺してやるから覚悟しろよ」
もう俺は完全に頭の血管が切れていた。
絶対にこいつをKOしてせいせいしてやる。
おでこをぶつけ合って罵っている時、俺とヤバ男の間に人が入ってきた。
「やめろ!お前何やってんだ!警察に行って人生全部終わりになるぞ!」
「お前はこっちへ来い!!」
俺は、腕をつまられ県道の端っこの方へ連れて行かれた。
「おい!ヒゲの若造、調子に乗るなよ」
ヤバ男にも釘をさす。
遠くからヤバ男の声がする。
ヤバ男「逃げんのかーおーい。よえーな。俺の勝ちだなー!」
「気にするな。負けるが勝ちだ。あいつは人生終わってる」
俺「誰だアンタは?」
俺は少し冷静になってきてその人の顔を見た。
父だった。
どうやら父は同じスナックの一番奥のボックス席で飲んでいた。
危なかった。父がいなければ逮捕されていて本当に人生終わりだ。
血圧が上がって、急に下がり俺はここから記憶をなくす。
起きたら部屋の天井だった。
父は、その夜の話を今までの20年間で一度も話したこともない。
しかったこともない。
ただ、わかったこと。
父は親で、父は強くて、父は優しくて、父は頼りになる男ということ。
父との関係の再確認こそ、闇落ちと言う神の長きにわたる手に余るプレゼントなのかもしれない。
しかし、チェックポイントなしの半年のプレゼントはかなり難易度が高かった。
第5話完
◆次回予告
30キロのシリコンが入った袋を持った瞬間。
ピキッ
俺「あっ!痛てーーー!」
力仕事のお約束、ギックリ腰を発症。
戦力にならない俺は2週間動けず会社を休むことに。
これは皆経験しているから、変なギフトではない。
この世界的なタイミングのギックリ腰と言うのがデスギフトなのだ。
この時世界では、リーマンショック・サブプライムローン問題が。
まさかアメリカの金融危機が俺のギックリ腰に繋がるとは流石神デス。

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