「ガヤ」を探る 花蓮の現代アート展(後編)
11月に見た、花蓮美術館の展覧会のレポート、まずは「ガヤ」について説明した前編と、イダス・ロシンやラバイ・イヨンなど、原住民族にルーツを持つアーティストの作品について書いた中編からの続きです。
まさに「対話」を感じた展示の数々
この展覧会では、原住民族にルーツを持つわけではないアーティストの作品や、原住民と漢人の交わりに関する作品も目立ち、とても心動かされた。そこには、同じ台湾社会で生きていく者同士の、お互いの文化へのリスペクトがあり、過去を乗り越えようとする「和解」の意志が感じられるからだ。

デム・バサウ(黃林育麟/ 鐵木•巴紹)は南投のタイヤル族の出身で、現在は銅門村に住み、大型インスタレーションなどの制作を続けている。山東省出身のデムの祖父は、戦後台湾に来て、タイヤル族の集落で50年間、小学校の先生をしていたという。この作品シリーズは、祖父が使っていた道具類、紙や筆、墨、硯、本などをモチーフに、廃墟となった祖父の家を象徴的に再建しようとしたものだ。祖父は教壇に立つ傍ら、しだいに農業や狩猟などタイヤル族の仕事を覚えていったというが、デムは彼の生き方に、原住民のアイデンティティにまつわる血統主義を乗り越えるヒントを見出している。そして作品をとおして、祖父の人生を祝福している。
リャン・ティンユー(梁廷毓)は、文学賞を受賞したりなど、作家、研究者としても活躍しているアーティスト。客家人である自分の先祖のなかに、原住民族との抗争のなかで首を刈られた人が数人いたという記録を見つけ、そこからリサーチを始めて制作した作品《断頭河プロジェクト》などで知られる。今回の展示《霊遊地誌 Spectral Geographic Chronicle》は、銅門村の周辺の山々に伝わる、日本時代から戦後までの心霊話について、オーラル・ヒストリーなどの資料を集め、地図や映像、写真、テキストなどを用いて伝えている。

地図は3枚あって、華語と原住民族の言葉での地名が両方書いてあった

座談会が行われたスペースでは、ジョウ・ダイジュン(周代焌)のインスタレーションが展示されていた。彼は画家として評価されてきたアーティストだけれど、2022年に南島国際美術賞を受賞して台東美術館でレジデンスをしたのをきっかけ(ちょうど今週末12/20から「潜行」というタイトルの受賞者展も始まった)に、ここ数年、原住民族の狩人と一緒に山に入っているようで、随分と作風が変わってきているそうだ。工業化などで変わりゆく台湾の風景を描いていた画家が、原住民と行動を共にし、「ガヤ」について探り、新たな表現を見つけていることが面白いなと思う。
今回のインスタレーションは、山で自分が感じたことや動きなどをオブジェとして並べてみて、それらが、原住民の知識体系の中で、どのように霊的な存在からの反応として捉えられたり、記号として解釈されたりするのかについて思考したものらしい。観客それぞれの持つバックグラウンドによって見えるものが違うことそのものをコンセプトともしているこの展示は、「作者の死」という現代アートの古典的理論づけに拠りながら、私たちに、同じ台湾という場所に存在する、異なる価値体系との出会いを促す。

(photo from 花蓮美術館 FB page)
最後に触れたい参加作家は、パン・ユキ(潘小雪)さん。彼女は台湾原住民の現代アートが今のような注目を集めるずっと前から、彼らを支えたキュレーターでアーティストだ。台北当代芸術館で館長をしていたことから、彼らの作品が現代的な文脈に置かれることを推し進めた立役者でもある。このあいだ参加した座談会に登壇されていたので知ったのだが、平埔族(高山ではなく平地に住む原住民族)のバックグラウンドをお持ちなのだという。いずれしっかりお話を伺ってみたいと思っている。

山や鷲などを描いた絵画と木の枝などのオブジェを組み合わせたインスタレーション
以上、展覧会も座談会もとても面白く、銅門村でのイベントに参加できなかったのは本当に残念だった。四方さんいわく、鹿の解体とふるまいもあったそうで、そこは私はちょびっとだけで……と思うが(基本ペスカタリアンだけど、こういう時は有り難く少しだけ頂く)次回は絶対に逃さないようにしたいし、来年の兒路の台北公演も本当に楽しみだ。
シューリーは座談会で、原住民のアートと言えば手作りか織物というステレオタイプから逃れるためにテクノロジーを使うことが重要だと話していた。もちろんそういう一面もあるものの、私は現代的な要素と伝統的要素のどちらも大事なんじゃないかと思っている。手作りや織物でも革新的であり得るし、それは世界の先住民アートでも実践されていることだ。何よりも、この展覧会のように、現代アートをとおして、先住民とセトラー(移住者)の共存を探る試みというのは、排外主義や分断が進む今の世界で、蝋燭を灯すような、とても尊い試みであるように思った。
💎展覧会情報
Gaya 当代転生術 Transmigrating in the Contemporary
会期:2025/10/18- 11/30
会場:花蓮美術館
Header:余欣蘭 Rngrang Hungul “Spirit Egg — A Visual Creation Project on the Truku Family Ritual of Summoning Spirits for the Hunt” (筆者撮影)
