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骨は無罪、爪は紫

深夜1時。
私はパソコンの前で、
紫色について考えていました。

原因は、AIです。
いや。
正確には、父の足の爪です。

父の日に柱に打ち付けて
負けた父の足指は、
一週間後、ふたたび
病院へ連れていかれました。

再捜査です。

前回、父の足指は
レントゲンに写されても、
最後まで黙っていました。

骨は折れていない。

しかし、先生は言いました。
「来週、もう一度レントゲンを
撮りましょう」

その場では証拠不十分。

けれど、一週間後に骨が
態度を変えるかもしれない。

そして一週間後。

父はふたたび病院で、
レントゲンを撮りました。

先生は言いました。
「骨は折れていませんね」

骨折の線は、ひとまず
消えました。

父の足指は、二度目の
レントゲンにも耐え、
骨折疑惑を晴らしたのです。

ただし、ここで事件が
終わったわけではありません。

父の爪は、尋常ではない
紫色になっていました。
そして、足指は
まだ腫れぼったい状態でした。

先生は言いました。
「骨は折れていませんが、
足指の組織をかなり
痛めましたね」

父の足指をめぐる捜査は、
骨折方面から、組織損傷方面へ
引き継がれました。

先生によると、しばらく湿布。
痛み止め。

私はAIを呼び出しました。
「父の足の指、再度
レントゲンを撮ったら骨は
折れてなかったんだけど、
爪が紫で、足指もまだ
腫れが治まっていなくて、
組織が痛んでるって言われた。
これはもう解決なの?
それとも、まだ事件は
続いてるの?」

AIは、いつものように
落ち着いて答えました。
「未桜さん、骨折が確認
されなかったという意味では
安心材料ですが、痛みや腫れ、
爪の変色がある場合は、
組織の損傷として経過を
見る必要があります。
医師の指示どおり、
湿布や痛み止めを使い、
痛みが続く場合は再度
相談してください」

正しいけれど、捜査資料と
しては地味です。
私は聞き直しました。
「つまり、骨折の線は消えたけど、
足指全体としては、まだ捜査継続
ってこと?」

AIは少し困ったように、
しかし否定しきれないように
答えました。
「比喩としては、そのように
表現できるかもしれません」

AIから、かなり控えめな
捜査継続の見解が出ました。

しかも父は、病院で
恐ろしい話を聞いてきました。

以前、同じように検査をして、
骨は折れていないと言われた人が
いたそうです。

でも痛くて歩けない。
それなのに、何度レントゲンを
撮っても骨は折れていない。

そして、一か月後。

何度目かのレントゲンで、
足指の骨が折れていると
わかったそうです。

一か月遅れの供述。

骨にも、もう少し社会性を
持ってほしい。
なぜ初回で「実は折れています」
と言ってくれないのか。

でも、骨は人間の都合では
動きません。
仕事でもそうです。

「大丈夫です」と言われた案件が、
翌週、大丈夫ではなくなります。

「確認しました」と言われた
資料が、一か月後、確認されて
いなかったことになります。

「問題ありません」と言われた
話に、あとから紫の爪みたいな
物証が出てきます。

父は帰宅後、湿布を
貼りながら言いました。
「折れてなくてよかった」

でも、痛みが消えたわけでは
ありません。
骨折の疑いは晴れても、足は痛い。

でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。

一番大きな疑いが晴れても、
現場がまだ片付いて
いないことがある。

無敵だ。
最強だ。

父の足指は、骨折の線では
いったん捜査対象から
外れました。

ただし、爪は紫。
組織は負傷。
湿布は継続。

そして冷蔵庫には、
父の日の獺祭がまだいます。

父の足指事件は、
解決したのかしていないのか
よくわからないまま、
湿布だけ増えて
家に戻ってきました。


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