【創作】アダージョ 第4話
「私のこと誰だか知ってる?」
「い、いいえ、存じ上げておりません、恐縮ですが」
巨乳美女の威圧は、強力すぎる。
「私、奏真の彼女なの。趣味はボクササイズ」
やっぱりそこか奏真‼︎こんな肉食系と恋人にならないでよ‼︎
「あなたね、奏真に付き纏っていて、ウザいんだけど、消えてくれない」
き、き、消えるって何処に?東京湾の海底?
「それはこちらのセリフです。私を呼び出されたのはそちらじゃありませんか」
やばっ、私、急に口調まで演奏モードにならないでよ!
「何よ、あなた川崎流の子でしょう。何なら指の2、3本、折ってあげましょうか」
「そ、それだけはご勘弁を!」
ひええ、お、お、お、お父さーん‼︎
「そんなとこで何やってんの」
その時、別の声が聞こえた。私を助けるヒーロー登場?と思ったら、声の主はなんと杏だった。
「お姉ちゃんをいじめないでくれる?」
中学1年生にして170cmある身長と、小さな顔に長い手足。中学一の美少女と呼ばれる杏がそこに立っただけで、周りの空気が緊迫したのが手に取るように分かる。だけど、
「あ、杏。杏って強いんだっけ?」
「うん。私、憲法全文暗記してるから、憲法バトルなら負けないよ」
「そんなピンポイント、今やらないと思う!こんなとこ来ないで人呼ぶとかしてよー!」
「え、そう?2人でやられたら1人でやられるより痛くないよ?」
動じないところまでお父さん譲りなのはいいけど、普通怖いでしょ、この状況!
「何ゴタゴタ言ってんのよ。わざわざお出ましなんて、仲良い姉妹ね。ちょうど良いわ、妹もボコボコにしてあげる。2度と学校に来られないようにしてあげるわ」
「ひええ!何なのこの昭和の展開!」
「うるさいわね!昭和は拳で分かりあう良い時代なのよ!」
うわーん、もう駄目!杏を咄嗟に庇って自分が前に出ると、また別の声が聞こえた。
「先輩方、かっこ悪いことやめてくださいよ」
馴染みのある太い声だった。
大晴がため息を吐きつつ来て、急いで後ろの杏に駆け寄る。わ、わわわ私は、どうでもいいの?
「大丈夫か、杏」
「うん、私は余裕だけど、お姉ちゃんが重傷」
「あ、マジか。翠、膝が笑ってんじゃん」
「な、何、その、ついで、みたいな、声かけ」
「お前、声まで震えてんぞ」
もはや私は全身が凍りつく寸前のように、ガタガタと痙攣のような震えが止まらなかった。
「本当に、何やってんですか。見損ないました」
また別の声がした。息を切らせて、奏真が私を守るように私の前に来てくれた。バスケ部の仲間のような人たちも走ってくるのが見える。
「翠、大丈夫?」
王子様って、絶体絶命のときじゃないと来ないんだよね。出来ればもっと早いうちに来て欲しいんだけど。
「あ、翠。翠!」
私はたくさんの人がいるにも関わらず、倒れてしまった。
気がついたら保健室のベッドに寝かされていた。綺麗な顔が私を見ている。
「翠、大丈夫?気がついた?」
寝覚めに奏真の顔。眼の保養。
「うん」
まだあまり声が出ない。私は布団を顎にかかるくらい上げた。
「ごめん翠。嫌な思いさせて」
「奏真のせいじゃないよ。すごい......胸が大きい人だったね」
「ああ......そんな小さい声で、そこ?」
奏真が当惑したような顔をした。
「なんか、羨ましくて。どうやったら......ああなれるんだろ......私、眠い」
「疲れたんだろ、もう少し寝てなよ。そのうち凪先生も来るから」
そこでまた意識が切れてしまった。
保健室の布団は薄くて、少し肌寒い。次に起きた時、隣にお母さんがいた。
「翠、大丈夫?大変だったね」
「お母さん」
小さい声で呼んだ私に、お母さんは私の髪を撫でてくれる。
「杏たちに全部聞いたよ。杏を守ってくれたんだって。ありがとう。怖かったでしょう」
「うん......杏たちは?」
「先生に事情を話してる。お父さんが戻って来たら帰ろ?それまでもう少し休んでて」
「お父さんも来たの?」
「うん。今ね、校長先生に喧嘩売りに行ってる」
「また?それって、いいの?川崎流として」
校長先生、さぞ怖いだろうな。
「川崎流は某系だから、いいのいいの。しっかりヤキいれてもらわなきゃね」
お母さんは黒い顔で、ヤクザの姐さんみたいにニヤリと笑った。
その夜、私を呼び出した先輩3人が両親に連れられて謝りに来た。お父さんはマフィアのドンのような顔で不気味な笑みを湛えて、先輩の両親たちを震え上がらせていた。
「安心しろ翠。これでお前を狙う奴はもう出ないだろう」
応接室でお母さんと2人で9人を相手したお父さんが何を言ったのか知らないけど、先輩方もご両親も真っ青な顔をして、足をもつれさせるようにして帰って行った。
助かったのは助かったけど、別の噂が立ちそうで怖いんですけど。
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「翠が?奏真の彼女に?」
父さんは帰るなり母さんから事情を聞いた。
「彼女って高2なの?」
聞いて父さんは眼を泳がせた。
「誰も怪我しなかった?奏真、そんな人とは別れた方がいい」
「翠が気絶したから、悪いことした。もう別れたよ。あんな性格が悪いとは思わなかった」
いろいろ教えてもらえたけどな。
「翠には謝ったんだろ?しばらく気遣ってやれよ。まあ、これも勉強だな。次から気をつけろ」
「優成、そんな軽くていいの?」
母さんが非難めいて父さんに言う。
「奏真、晃輝先生に絞られただろう?」
「俺、殺されるかと思ったよ。ひどい剣幕だった」
「それじゃ、俺の出る幕はないよ」
夕食を食べ終えて部屋に引き上げると、ノックの音がした。
「父さん?どうしたの」
「奏真、大変だったな。これ、持っておけ」
袋を渡されて中を確認する。女の子とスルときに大事なモノだ。正直ありがたいけど、こういうのって、親が息子に渡すものじゃないと思うんだけど。
「あの、父さん」
「いいか、結婚するまで子どもだけは作るなよ。人生台無しになるからな」
「父さん、あの」
「お母さんには内緒だ。いいね」
「何が内緒ですって?」
俺の部屋の中にいた母さんが、引き攣った笑顔を作って出て来た。
「うわっ、一華いたの?」
「奏真に何をあげたのかな、優成」
「いやこれは」
慌てる俺から無理やり袋を取って、中を確認し、途端に母さんは激怒した。
「何やってるの優成!まだ15の子にあげるものじゃないでしょう!」
「落ち着け一華、奏真の彼女は高2なんだろう、
だったら遅すぎるくらいだ。もう食われて......うわっ!」
母さんが思い切り父さんに体当たりして、廊下の壁が音を立てる。
「なんて事言うの!優成と奏真は違うの!」
「一華、落ち着いて。俺の時代より今の子は進んでる。だからとっくに......待て待て!」
「今の子の方が真面目なの!子どもができなければ良い問題じゃないでしょ!病気になったらどうするの!2人ともちょっとそこに座りなさい!」
父さんのせいで、俺にまでとばっちりが来た。父さんは普段かっこいいのに、母さんに怒られる時は途端に情けなくなる。さっき眼を泳がせていたところを見ると、父さんも俺と同じ年くらいの頃、年上に食われたのかな。
「お父さん?みんな、どうしたの?」
そのとき、由乃がウサギのぬいぐるみを抱えてやって来た。
「あ、これはね、そうそう、学校ごっこなの!」
「そうだよ。お母さんが先生なんだ、ははは」
それちょっと、苦しいんじゃない?由乃はもう10歳だ。信じる訳がない。
「ずるい。私も入れてよ」
え、信じるんだ。由乃の将来が心配になってきた。変な男に騙されやしないかな。由乃、お兄ちゃんがずっと守ってやるからな。
「由乃、じゃあこっちに座って。由乃も生徒役でいい?今ね、男子が悪いことして、先生に怒られてるの」
「あー、男子ってバカみたいなことするよね。ほんと、私のクラスも男子は子どもみたいなの」
い、いや、由乃に言われたくないと思う。
「由乃とうさぎのうーちゃんは、男子が悪いことしたから、クラス全員怒られてとばっちりを受けてるところなの」
「あーあるよね、そういうとき。ほんと男子ってバカなんだから」
「父さん、俺なんか今イラッときたんだけど」
俺は隣にいる父さんに小声で話しかけた。
「元はと言えば奏真のせいだろう。黙って叱られてろ」
「えー俺のせい?父さんが変なのくれたからじゃない?」
「そこの男子2名!先生が叱ってる時に、何をおしゃべりしてるのかなあ?」
「は、はい!すみません!」
「本当、男子って困るよねー、うーちゃん」
続きはこちら。
前回のお話はこちら。
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