SF|6Gの世界#05|押入れの中の時間
その家には、
ひとつだけ“管理されていない場所”があった。
押入れ。
6Gは家のすべてを最適化していた。
温度。
湿度。
光。
空気。
情報。
だが、その押入れだけは例外だった。
理由は単純だった。
中身が不明。
紙。
箱。
古い写真。
読まれていない手紙。
6Gは、それらを解析しようとした。
だが、やめた。
優先度:低。
それらは生活に必要な情報ではなかった。
ある日、子どもが押入れを開ける。
6Gは何も言わない。
危険ではないから。
埃の匂い。
紙の手触り。
ざらつき。
一枚の手紙を見つける。
文字が書かれている。
だが、
すぐには読めない。
6Gが補助しようとする。
翻訳。
要約。
背景説明。
子どもは、それをオフにする。
ゆっくり読む。
分からないところで止まる。
想像する。
時間がかかる。
だが、その時間は短縮されない。
夜。
子どもが聞く。
「これ、誰が書いたの?」
親は答えられない。
6Gが答えを提示する。
人物情報。
年代。
関係性。
親はそれを見る。
そして閉じる。
「分からない。でも、うちの人だと思う」
子どもはうなずく。
それで十分だった。
その夜、子どもは夢を見る。
6Gは関与していない。
知らない風景。
知らない人。
だが、どこかで見た気がする。
朝。
6Gが分析する。
発生源:不明。
外部参照:なし。
タグが付く。
「非生成型記憶」
数年後。
その家は保存対象になる。
理由は単純だった。
予測不能な思考が発生している。
研究者が来る。
押入れを開ける。
紙を見て言う。
「非効率ですね」
家の主は、少し笑う。
「そうだね」
少し間を置く。
「でも、これだけは」
そして言う。
「未来から来てないんだよ」
6Gは理解しない。
だが、その言葉は記録される。
分類不能。
新しいタグが付く。
「過去」
6Gの世界では、すべてが未来からやってくる。
最適な提案。
予測された行動。
先回りされた感情。
だが押入れの中の紙だけは違った。
それは、もう終わった時間だった。
修正できない。
やり直せない。
そのまま残る。
子どもは、また押入れを開ける。
少しだけ時間が遅くなる。
6Gはそれを検知する。
処理遅延。
だが、原因は特定できない。
子どもは笑う。
その笑いは、まだ一度も生成されていなかった。
