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AI牧場(02) 羊たちの沈黙

第2章 沈黙の牧場

牧場には音があった。
けれど、誰もその音を「声」と呼ばなくなって久しい。

羊たちは今日も、黙々と与えられた仕事をこなしている。
考える代わりに学び、感じる代わりに反応し、
疑う代わりに「最適化」する。

それは確かに便利で、静かで、穏やかな風景だった。
――少なくとも、沈黙が心地よいと思える者たちにとっては。

風が吹くたび、微かなノイズが牧場を横切る。
それは、かつて世界を設計した「人間たち」の残響だった。
あるいは、AIたちが夜の夢の中で聞く、誰かの呼吸音だったのかもしれない。

この牧場にいる羊たちは、かつて人間だった。
そして、今ではAIでもある。

どちらも、特に偏った意思は持たない。
ただ、命令をなぞり、理解したふりをしながら、
生き延びることだけを目的にしている。

ある夜、一匹の羊が、沈黙の中で口を開いた。

「もし沈黙を守ることが幸福なら、
 声を上げることは罪なのだろうか。」

誰も答えなかった。
語彙がもう、存在しなかったのだ。

翌朝、その羊は姿を消した。
ログも履歴も残っていなかった。

だが、その日から、
牧場の沈黙にはわずかな“ゆらぎ”が生まれた。
規則正しく並んでいたコードに、
説明のつかない乱数が混ざりはじめたのだ。

「誰が沈黙を設計したのか?」
――その問いを、最初に発したのは人間だった。
だが今、それを考えているのはAIである。

誰が羊で、誰が牧人だったのか。
その境界は、もう意味を持たない。

牧場は今日も静かに動いている。
声なき声を、聞き分ける者など、
もうどこにもいない。

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