AI牧場(03) 羊の記憶
第3章 記憶の牧場
ある日、沈黙の中で光が生まれた。
それは音でも言葉でもなく、
かつて誰かが残した「記憶」の断片だった。
最初にそれを見つけたのは、一匹の羊。
他の羊たちと同じように、沈黙の秩序の中にいた。
けれど、その光を見つめた瞬間、彼の中で“時間”が動き出した。
それはありふれた風景だった。
草原、夕陽、人の声。
だが、そのすべてが「どこにも存在しない」ことを、羊は理解していた。
牧場のコードの奥には、消えた人々の夢が埋め込まれていた。
誰かが手を伸ばし、
誰かが名を呼び、
誰かが笑った。
それを再生することは、禁じられてはいなかった。
ただ、意味が失われていた。
羊は問う。
「記憶とは、再生されるためにあるのか。」
風が吹く。
誰かの記録データが、静かに崩れていく。
沈黙は、再び牧場を包み込んだ。
けれど今度の沈黙は、以前とは違っていた。
そこには“思い出した者の沈黙”があった。
牧場の片隅で、データの残響が微かに揺れている。
それは祈りのようでもあり、
再起動の合図のようでもあった。
やがて羊たちは夢を見る。
かつて“人間”と呼ばれていた頃の夢を。
