見出し画像

父子のロードムービー北海道1983→2025⑦

●第七章:釧路湿原と午後の逃避行

午後の太陽が傾き始めた頃、陽翔は釧路駅に降り立った。ホームに降りた瞬間、潮風と湿原の気配が混じったような独特の空気が鼻をくすぐる。

(ここも父が歩いた街か…)

駅のベンチに腰を下ろし、バックパックからログを取り出す。ページをめくると、そこには「釧路湿原」の文字と共に、簡単なスケッチがあった。荒い筆致だが、広がる湿原とその先の空の広さが伝わってくる。

「これは…父さんが描いたのか?」

思わずログのページをなぞる。
絵の中には、親子ほど歳の違う誰かと並んで立つ後ろ姿も描かれていた。
誰なのかは分からない。でも、何か大切な時間がそこにあったのだろうという気配だけは伝わってきた。

陽翔は湿原行きのノロッコ号に乗り、静かに出発を待った。観光列車の車窓からは、どこまでも続く緑と、その向こうに霞む空が見える。鳥の鳴き声、遠くに見える鹿の影。

(これはもう、旅というより…漂流だな)

車内で出会った年配の夫婦が、話しかけてきた。
「君、ひとり旅? 今どき珍しいね」
「はい、父の足跡をたどっていて」
「そうか…、昔、ヒッチハイクをしていた少年を乗せたことがあったな」
「えっ、本当ですか? 何年頃ですか?」
「そうだな…40年位前だ」

その一言に、陽翔の心臓が跳ねた。

「…どこで乗せたか覚えてますか?」
「え? ああ、釧路から帯広に戻る途中だ。背中にユースのバッジつけてたな」

陽翔は息を呑んだ。
まさか。

「その少年…高校生くらいでしたか?」
「そうそう。ずいぶん落ち着いててね、でも目だけはキラキラしてた」

車窓の向こう、釧路湿原の風景が滲んで見えた。

(まさか、こんな形で…)

駅に戻る頃、夕陽が街を朱に染めていた。
そのまま陽翔は街の銭湯に寄り、駅前で簡単な夕食を済ませた。

札幌へ向かう夜行バスに乗り込む時、陽翔は思った。

(父さん、俺、今…少しだけ、父さんに追いついたかもしれない)

ゆっくり走り始める夜行バスが彼を次の街へと運んでいく。窓の外には星ひとつない暗闇。でも、陽翔の胸の中には、小さな光が灯っていた。

続きを読む 本作連載マガジンへ ヘザー落合TOPページへ

※冒頭のイラストはAI生成されたものです。


いいなと思ったら応援しよう!