見出し画像

父子のロードムービー北海道1983→2025⑥

●第六章:20日間の魔法と40年の距離

網走の小さなビジネスホテルで目を覚ます陽翔。駅の売店で買ったサンドイッチをかじりながら、手元のノートパソコンを開く。昨日のルート、今日の天気、次に行けそうな場所をざっと調べてみる。

だが…。バックパックから例の「父の旅ノート」をふと取り出した。

「え…?」

ノートの記録によれば、父は稚内から札幌に南下した翌日、再び道東の摩周湖に立ち寄っている。

「どんな移動だよ…」
思わず声が漏れる。

当時の北海道周遊券。

国鉄が発行していたこの切符は、北海道内の急行列車が何度でも20日間乗り放題になる魔法のようなパスだった。寝台でなければ夜行急行にも乗れたため、宿代を浮かせるために“車中泊”が当たり前。青春18きっぷより自由度が高く、何より急行列車の本数が今より圧倒的に多かった。

夜行急行「大雪」「利尻」「まりも」。
今はこうした急行は全て特急になっている。
朝と夜の境界線を縫うように、夜行列車は走り続けた。

明け方、目的地に降り立った乗客は駅のホームの洗面所で顔を洗った。当時の夜行急行の終着駅のホームには洗面所があった。今はベンチになっているところで、夜行の乗客は顔どころか髪も洗っていたのだ。そんな旅のスタイルは、若き父にとっても冒険だったに違いない。

それにしても父のノートには東雲湖、襟裳岬、知床五湖、サロマ湖。能取湖、神威岬など、周遊券を使っても行きにくい地名がたくさん書かれている。移動ルートも、まるでボードゲームのようだ。

今も公共交通だけでは到達しづらい知床五湖や神威岬に、1983年に高1だった父は行っている…。

いま、陽翔がそれを再現しようとしたら?

「予算が2倍あっても無理だな…」

交通手段、時刻、予約、そして体力。
どれも、40年という時間の流れを、はっきりと刻んでいた。


父の旅は、今の旅とはまったく違うルールで動いていた。けれど、ルールが違っても、地図の上でなぞる道には何かが残っている。足跡なのか、気配なのか。あるいは、若さという名前の風なのか。

陽翔はペンを取り、父のノートの端に、そっと書き加えた。

「2025年、息子 通過」

続きを読む
本作連載マガジンへ
ヘザー落合TOPページへ

※冒頭のイラストはAI生成されたものです。

いいなと思ったら応援しよう!