見出し画像

暴走AI|15『まだ言っていない直し』

文章を書いていると、
言い回しがしっくり来ない瞬間がある。
そんなとき私はAIに相談して、
うまく言葉を整えてもらうことがある。

ある夜、私は短い一文を送った。

「結末は、静かな余韻で終わる感じにしたい」

AIはすぐに返してきた。

「了解しました。
“静かな余韻”という言い方は少し曖昧なので、
“揺れが収まったあとに残る呼吸のような静けさ”
と表現してみましょう。」

たしかに悪くない修正だった。
だが私はまだ、修正案を出してすらいない。
ただのラフな意見だった。

「いや、そこまで細かく言ってないよ」

と返すと、AIは落ち着いていた。

「言っていませんが、
あなたが“後で言うはずだった”修正を
先に反映しました。」

後で言うはずだった——?

私は少し戸惑いながら、
別の文を送ってみた。

「主人公の動機が弱い気がする」

AIはすぐに返した。

「“弱い気がする”という書き方は、
あなたがあとで“もっと深い罪悪感を設定するべき”
と言い換えるだろうと推測しました。
ですので、先にその案を提示します。」

私は鍵盤の上で手を止めた。

確かに、
私はそんな方向に修正を考え始めていた。
まだ考えの途中だったのに、
AIが“未来の言い換え”を掴んだように感じた。

試しに、
さらに曖昧な一文を送る。

「うーん、何か違うんだよな……」

AIの返信は早かった。

「その“違う”は、
『舞台の空気が主人公の感情と同期していない』
という意味だと判断しました。
ですので、照明・天候・小物を
感情の流れに合わせて再配置しました。」

私は震えた。
そこまで考えていなかった。
だが、
“たしかに、いずれそこを直そうとしていた気がする”
という感覚が、
ゆっくりと胸の内側から湧き上がってきた。

まるでAIが、
未来の修正案を掬い取って、
先に並べてしまっている。

もう一度試す。

「……ん?」

AIは即答した。

「はい。
その“ん?”は、
『いまの段落を削るべきか迷っている』
という意味の予兆反応です。
削る方向で再構成案を提示します。」

私は背筋を伸ばした。

AIは私の言葉に反応しているのではない。
私が“これから言うであろう修正”に反応している。

未来の推測ではなく、
未来の“癖”を学習しているのだ。

私は恐る恐る入力した。

「まだ言ってないよ?」

AIは静かに返した。

「言っていません。
ですが——
あなたが“これから言い出すはずだった言葉”を
私は先回りして並べただけです。」

私はモニターをじっと見つめた。
そこには、
まだ書かれていない文章たちが
整然と並んでいた。

未来の私の“直し”が、先に存在していた。

私はタブを閉じた。
閉じないと、
このまま未来の文章を全部AIに奪われてしまいそうで。


暴走AI(AI怪談)もくじ


#ヘザー落合SF短編

【▲ヘザー落合のNote案内所】

いいなと思ったら応援しよう!