俺たち北支工作隊④
第4話 安藤橋
11月末、俺たちは応城の西側にいた。川幅は80メートルほど、深さもあって馬では渡れない。流れの先は漢口に続く主要路線だ。壊れた橋の残骸が水面に影を落としている。
「10日で架けろ」
命令はそれだけだった。
昼は杭を打ち、夜は松明の灯りで縄を結ぶ。
冬の川の水は、足を一度入れたら感覚がすぐなくなる。
「おい、足の色見ろよ、死人みたいだぞ」
森田が笑いながらも、手は震えていた。
現地から集められた人足も、竹を担いで泥に足を取られながら往復する。
作業場の端には、破壊されたトラックや装甲車が転がったままだ。
「こいつら、爆撃の時にやられたんだと」
誰かがつぶやいたが、もう聞き流す余裕もなかった。
6日目の夜、強風で仮設足場がひとつ流された。
全員が水に入って必死に縄を回し、柱を立て直す。
隊長も松明を持って現場を歩き、低く声をかけた。
「もう半分だ。やれる」
10日目の夕方、最後の板が渡される。
隊長が橋の中央で立ち止まり、振り返った。
「安藤橋とする」
拍手も歓声もなかった。ただ、誰かが深く息を吐いた。
夕暮れの空の下、川面に映る橋の影は、やけにまっすぐで黒かった。
※この物語は実在した中隊の記録を基にしたフィクションです。
この中隊は正確には旅団独立工兵中隊であり、物語の中に出てくる地名や橋などの建造物の呼称は実在したものを使っています。
