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俺たち北支工作隊⑤

第5話 徳安の正月
12月の徳安は風が冷たい。城内の道は狭く、馬と荷車がすれ違えない所もある。外れの畑は夏の戦闘で荒れたまま放置され、枯れた茎だけが風に揺れていた。

森田が足を止め、指でその茎をしごく。中から小さな実がいくつか落ちた。
「食えるかもしれん」
ポケットに入れて、宿舎に戻ると煮てみた。結果は…残念。湯気と一緒に、苦い匂いが鼻を突いた。

年が明ける前日、安藤隊長が言った。
「元日は餅をつくぞ」
炊事場の横に臼と杵が運ばれ、粉だらけの手で兵も人足も交代でついた。
正月の朝、安い酒と餅が配られる。宿舎の前には小さな松飾り。
「こんな飾り、どこから…」と聞けば、現地の子供が自分の家から持ってきたらしい。

餅は硬く、酒は薄かった。
けれども湯気と笑い声が同じ部屋にあるだけで、不思議と腹は膨れた。

外は相変わらず寒く、城壁の影は昼でも薄暗い。
けれど、この日だけは誰も作業服を着ず、銃も持たなかった。
ほんのひと時、俺達は工兵ではなく、ただの人間に戻ったのだ。

※この物語は実在した中隊の記録を基にしたフィクションです。
 この中隊は正確には旅団独立工兵中隊であり、物語の中に出てくる地名や橋などの建造物の呼称は実在したものを使っています。

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