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俺たち北支工作隊①

第1話 濁流の前で
銃ではなくシャベルを持って戦場に行くのが、俺たちの部隊だ。
敵の弾をかいくぐりながら川に橋を架け、道をつくり、時には壊す。
命令なら、夜でも雨でも、泥に胸まで浸かってやる。
橋がなければ砲も渡れず、道がなければ馬も進めない。
いうなれば俺たちは、部隊を動かすための“地ならし”だ。
誰も名前を覚えちゃくれないが、俺たちがいなければ戦いは始まらない。

昭和13年8月6日。北堤の土手の上から見下ろすと、見渡す限りが水だった。
6月12日の夜、上流で堤防が爆破され、濁流が村も畑も呑み込み、平原を1つの湖に変えた。
公主嶺を発って二週間、河南省帰徳に入り、さらに白蘭塞と北堤に分かれて作業を始める。

「麻袋はこっちだ! 砂は急げ!」
斉藤軍曹の怒鳴りが蝉時雨に混ざる。
森田と一緒に、現地人が押してきた一輪車から麻袋を受け取る。
湿って重い袋を肩に担ぐと、水がじわりと染み込んだ。

作業は単純だ。砂を詰めた麻袋を渡し、決壊口に積み上げる。
だが真昼の黄河は容赦なく皮膚を焼き、背にはすぐ火ぶくれが浮かぶ。
「この暑さじゃ、どっちが先に壊れるか分からんね」
森田が息を切らして笑う。
背後では臨時の炊事所から湯気と飯の匂い。
集められた百人単位の人足が鍋の周りで順番を待っていた。

午後、積み上げられた袋がようやく堤の形を取り戻す。
茶色い水が袋にぶつかり、音を立てて跳ね返る。
安藤隊長が濡れた前髪を払いながら言った。
「これで村までは水は行かんだろう。…雨が来たら分からんが」

夕暮れの黄河は、陽を反射して赤く染まっていた。
遠く新民門の塔が、熱気の中にかすんで浮かぶ。
押しとどめたと思っても、次の瞬間には別の場所から溢れ出す。
戦争も、きっと同じだ。
俺たちは、ただそれを塞ぎ続けるしかない。

※この物語は実在した中隊の記録を基にしたフィクションです。
 この中隊は正確には旅団独立工兵中隊であり、物語の中に出てくる地名や橋などの建造物の呼称は実在したものを使っています。

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