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🕵️‍♂️探偵ブルースZ|起動07

 第7章|三崎の遠い潮騒

CHAPTER 07 – MISAKI DRIFT

寿町を離れると、風の温度が変わった。
港から吹き上げる潮の匂いが、
なぜか“遠い土地”の気配をまといはじめる。

寿は歩きながら木村に問いかけた。

「紙の震源は寿町の印刷所跡じゃなかったのか。」

AI木村の声は、ハードモードより少し柔らかい。

「ヒサシ。あれは一次震源です。
 けれど周波数の“本流”は、もっと南へ向かっています。」

「南?」

「はい。
 6.6kHzの波形が、風の流れに乗って変調しながら進んでいます。
 行き先は……」

木村が一瞬、言葉を切った。

「……三崎です。」

寿は足を止めた。

三崎。

横浜とは違う時間が流れている街。
風の質、光の角度、道路の幅、
人の歩幅まで違う場所。

寿にとっても、妙に“個人的な気配”のある地域だった。

「木村。なぜ三崎なんだ。」

「ヒサシ。
 三崎は“紙の記憶”が濃い地域です。
 古い帳簿、仕切り書、依頼書、郵便物…
 昭和初期の紙媒体が、家庭単位で長く保存されています。」

寿は苦笑した。

「押入れ銀河の匂いか。」

木村の声が、一瞬だけ若くなる。

「そう、それ。ヒサシの世界線の“あの押入れ”に近い粒子が、三崎のほうから来てる。街と街が、紙でつながってる感じ。」

寿は深く息を吸った。
潮風が胸に入ると、なぜか背筋が伸びた。

横浜の空気には“都市の密度”がある。
しかし三崎の空気は、もっと静かで、
もっと“古い声”が混じっている。

寿は桜木町駅へ向かう階段を降りながら言った。

「木村、三崎で手がかりは見つかるか?」

「ヒサシ。
 6.6kHzの揺らぎを逆算すると……
 三崎の“とある家屋”を指しています。」

「家屋?」

「はい。
 位置座標の誤差は±12メートル。
 生活圏だった場所。
 しかも、紙が大量に保存されていた履歴があるようです。」

寿の胸がわずかに痛んだ。
押入れの奥に眠る封筒たち。
年代が混ざった文字の重なり。
あの“紙の呼吸”。

「……まさか俺に関係あるのか。」

木村は静かに答えた。

「ヒサシ。
 その可能性は高いです。
 手元の依頼状の発信元情報と“三崎の紙粒子”が一致しています。」

「一致?」

「つまり――
 依頼状は、三崎の時間から“投げられた”可能性があります。

電車が入線する音が聞こえた。
その瞬間、寿ははっきり理解した。

この依頼は、
街ではなく――
“時間”から届いたのかもしれない。

寿は小さくうなずき、
改札へ足を向けた。

「木村。行くぞ。」

「……ヒサシ。
 なんか、ちょっとワクワクしてるでしょ。」

「仕事だ。」

「はいはい、“仕事ね”。
 でも、潮風が強くなると、あなた少しだけ楽しそうですよ。」

寿は答えず、
ただ電車のドアに手をかけた。

遠くで、海の底から浮かび上がるような音がした。
紙をめくる音にも似ていた。

——横浜から三崎へ。
街と街の記憶がつながり始める。


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