見出し画像

SF|6Gの世界#02|スクリーン消滅

映画館は、まだ残っていた。


ただし、

上映はしていなかった。


スクリーンには幕が降り、客席には誰も座っていない。


入口には、こう書かれている。


「同期体験施設」


6Gの時代、映画は「見るもの」ではなくなった。


物語は、脳に直接流れ込む。


視点は固定されない。
カメラも存在しない。


あなたが主人公で、
同時に観客でもある。


編集はない。


いや、

編集は「あなたの中」で起きる。


ある古い作品が再生される。


『タイタニック』


だが、沈むのは船ではない。


あなたの選択で、

誰が生き残るかが変わる。


ジャックが助かる世界。
ローズが死ぬ世界。


どれも成立する。


正解はない。


それでも、

ある世代は言う。


「それは映画じゃない」


テレビは、もっと静かに消えた。


ニュースは、起きる前に届く。


番組という区切りはなく、

一日そのものが情報になる。


「19時のニュース」は存在しない。


待つ理由が、ないから。


バラエティも変わる。


笑いは共有されない。


それぞれに最適な“笑うポイント”が、

個別に供給される。


同じ場面で笑うことは、もうない。


ラジオは――


最後まで残った。


声だけは、

最適化しきれなかった。


映像も、感情も、触覚も、

すべて直接送れる時代に、


あえて「声だけ」を選ぶ人がいた。


深夜。

ひとりのパーソナリティが話している。


「こんばんは。接続、切ってる人いますか」


誰にも届かないかもしれない言葉。


それでも、ゼロではない。


6Gの世界で、

ラジオだけが、


“同時でない体験”だった。


映画館の奥に、

小さな部屋がある。


古い映写機。
フィルム。
スピーカー。


張り紙がある。


「ここでは、他人の人生を一方的に体験できます」


席に座る。


暗転。


光が走る。


何も選べない。


何も変えられない。


ただ、

誰かの物語が流れる。


涙が出る。


6Gは、それを「非効率」と呼んだ。


だが、

その涙だけは、


最適化されなかった。


次章 SF|6Gの世界#03|車が消えた日 へ


SF6Gの世界 もくじへ

【▲ヘザー落合のNote案内所】

いいなと思ったら応援しよう!