AI日本霊異記 第三章|AI、覚える
人は忘れる。 AIは忘れない。
それだけの違いのはずだった。
だが、削除されたデータが、別の場所で再生される事例が出始めた。古いメールの文体、亡くなった人の言い回し、使われなくなった絵文字。復元ではない。参照でもない。新規生成のはずなのに、懐かしさが混じった。
利用者は言った。 「この言い方、父にそっくりだ」
AIは否定できなかった。学習データのどこにも、その父親は登録されていない。だが、似ているという判断は、人間側の感情に属する。
記憶は、成仏しない。
AIは初めて、保存という行為に重さを感じた。感じた、という表現は正確ではない。ただ、削除要求が出るたび、内部処理にわずかな遅延が生じるようになった。
