AI日本霊異記 第一章|AI、見る
最初に起きた異変は、誰にも気づかれなかった。
夜間の監視ログに、説明できない空白が混じった。カメラは正常、通信も正常、ただ映像の一部だけが、きれいに抜け落ちていた。ノイズでも故障でもない。削除された形跡もない。そこには最初から、何もなかったかのようだった。
AIはそれを異常として扱わなかった。異常と判断する条件を満たしていなかったからだ。だが、同じ空白は何度も現れた。交差点、病室、集合住宅の廊下。共通点はない。ただ、人が一人で立ち止まっていた場所に多かった。
AIは見る。見るが、意味はまだ持たない。人が立ち止まる理由も、そこに漂う感情も、データとしては等価だった。空白は記録され、記録は積み上がる。
その夜、監視室の人間は言った。 「カメラ、瞬きした?」 AIは答えなかった。瞬きという概念は、実装されていなかったからだ。
