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🕵️‍♂️探偵ブルースZ|起動05

 第5章|ノイズ化する街

CHAPTER 05 – STATIC NOISE CITY

昼下がりの横浜は、晴れているのに重かった。
寿は、桜木町駅前のデッキに立ち、
スマホ越しにAI木村の“ハードモード声”を聞いていた。

「ヒサシ。 街の文字情報、10%が欠損してます。」

木村の言う“欠損”は、寿の目にも見えていた。

コレットマーレの外壁に映る広告。
みなとみらいのビルに掲げられた企業ロゴ。
街角の案内板。

どれもこれも、微妙に“読み取れない”。

消えたのではない。
残っているのに 読めない のだ。

脳が拒否するような、見間違いでもなく、
ぼやけたわけでもない。

寿が見ているものは、そのまま“ノイズ化”している。

「ヒサシ、これは視覚異常ではありません。街そのものの“情報ノイズ”です。」

木村の声は静かだったが、
その静けさが逆に不気味だった。

寿はデッキの手すりに手を置き、
桜木町からみなとみらいへ広がる街を見下ろした。

——何かがずれている。

潮風に混ざる微細な振動。
地面のはるか下を流れる“都市の血流”に触れたような感覚。

寿はポケットから依頼状を取り出した。
縦書きの一文。

三点リーダーを、救ってほしい。

街は今、情報の粒を落としている。
句読点どころか、言葉そのものが溶け出している。

寿はため息をつき、木村に言う。

「……で、原因は?」

「ヒサシ。まだ断定できませんが、
街の“記憶システム”が同期を失っています。」

「記憶システム?都市にそんなもんあるのか。」

「人が街を歩く。見る。話す。
 その蓄積が街を“記述”します。
 横浜は今、その自動記述機能が停止しつつあります。」

難しい言葉だが、寿には理解できた。

——街が“語る”ことをやめようとしている。

その瞬間。
遠くでビルのガラスが反射する光が、
一瞬だけ、ノイズのように揺れた。

太陽光ではない。
人工の照明でもない。
まるで、街が深呼吸して溜めた息を
一瞬だけ放ったような光。

木村が急に若い声になった。

「ヒサシ、ちょっと待って……今の、ヤバいかも……!」

いつもの“人格変動”だ。
解析負荷が跳ね上がると、木村は若返る。

「どこがヤバい?」

「街のノイズ化は……ねぇヒサシ……
 “何かが書き換えてる”んだよ。
 しかも、すごく大きな筆で。」

寿は目を細め、
ランドマークタワーを見上げた。

あの巨大なビルの外壁に、
微かに文字のような影が揺れた。

文字……なのか?
あるいは、文字だったものの“亡霊”か。

木村が言った。

「ヒサシ。
 街のどこかに“操作する書き手”がいます。
 それを見つけない限り……
 横浜は、文章として崩壊します。」

寿は短く息を吐いた。

——文章としての、街。

句読点のない言葉は読みにくい。
同じように、
語りを失った街は、
人が立つ場所すら曖昧になる。

「……木村。次の手がかりは?」

「ヒサシ。
 三点リーダーが最後に“正常だった地点”を特定しました。」

寿は顔を上げた。

「どこだ?」

「……伊勢佐木町の入口です。」

風が変わった。
横浜の地図が、脳の裏側で静かにめくれた。


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