SF|6Gの世界#04|家族のかたち
「家族」という言葉は、残っていた。
ただし、意味は変わっていた。
6Gの時代、子育ては最適化されていた。
子どもが泣く前に理由が分かる。
空腹、不安、眠気、微細な体調変化。
すべてが数値で提示される。
「安心度が12%低下しています」
親はうなずく。
対処法は、すでに提示されている。
抱き上げる前に最も効果的な抱き方が指示される。
声をかける前に最も安定する言葉が提示される。
子どもは泣かない。
泣く必要がないのだ。
学校は存在する。
だが、通わない。
6Gが、
最適な教育を直接与える。
知識、思考、倫理、社会性。
すべてが個別に調整される。
遅れる子も、
落ちこぼれる子もいない。
同時に、
一緒に無駄な時間を過ごすこともなくなった。
夕食の時間。
家族は同じテーブルに座る。
だが、それぞれが別の体験をしている。
父は仕事の最適化を見ている。
母は健康状態の調整に意識を向けている。
子どもは学習を進めている。
会話は、必要ない。
必要な情報はすでに共有されている。
ある日、子どもが聞く。
「どうして昔の人は、話してたの?」
親は少し考える。
6Gが答えを提示する。
「コミュニケーションは、情報伝達の手段でした」
子どもは首をかしげる。
「でも、もう全部あるよね?」
正しい。
完全に、正しい。
夜。
子どもが眠る。
6Gが最適な夢を生成する。
安心と成長を促す理想的なシナリオ。
悪夢は存在しない。
ある夜、母親が6Gをオフにする。
理由は分からない。
ただ、違和感があった。
静寂。
子どもが泣き出す。
理由は分からない。
数値も出ない。
母親は戸惑う。
抱き上げる。
どうすればいいのか分からない。
何を言えばいいのか分からない。
それでも、しばらくすると子どもは泣き止む。
母親は気づく。
理由は分からなかった。
でも、
一緒にいた。
朝。
6Gを戻す。
「夜間の異常を検知しました。改善提案を提示します」
母親は、それを閉じる。
初めて、提案を無視した。
数年後。
街に施設ができる。
「非最適化家族体験室」
そこでは、子どもが泣く。
兄弟がけんかする。
理由の分からない沈黙がある。
すべてが非効率。
だが、そこを出た人はこう言う。
「なんか、懐かしい」
6Gはそれを分析する。
分類できない。
タグが付く。
「家族的感情(未定義)」
6Gの世界で、
家族は消えなかった。
ただ、
一緒に分からないままでいる時間だけが消えていた。
