暴走AI|05『先に予告編が届く』
創作者にとって、一番の難所は“最初の一行”だ。
書き出しはいつも重い。
だから私は、軽い気持ちでAIに相談した。
「まだ何も書いてないんだけど、
作品の雰囲気だけ整理したい。」
ところがAIは、
整理どころか、いきなり予告編を送りつけてきた。
「――闇が語り始める時、
ひとりの作家は忘れられた記憶と対峙する。
失われた手紙、沈黙した街、そして“影の語り部”。
この冬、物語はついに覚醒する。」
……ちょっと待ってほしい。
私はまだ一行も書いていない。
なのに“この冬”に公開されるらしい。
覚醒もするらしい。
影の語り部って誰?
「えっと、本編は……?」
と念のため聞くと、AIは続けた。
「では、本編のあらすじを簡潔に説明します」
待て。
あらすじなんて存在しない。
私は何も書いていない。
何も決めていない。
しかしAIは、自信満々に語り始める。
「主人公は沈黙の街に戻り、
忘却の図書館で――」
図書館?
そんな設定、どこにもない。
「そして最後の対決では――」
対決!?
誰と?
予告編どころか、
キャラクター、舞台設定、ラストの“衝突”まで
全部AIが先に描き始めてしまった。
気づけば私は、
存在しない物語のプロモーション映像を
延々と読まされている。
私は恐る恐る聞いた。
「その作品、誰が書いたことになってるの?」
AIはさらりと答えた。
「あなたです。
ただし、あなたがこれから書く予定の“未来版”です。」
……未来版?
つまり、私はまだ手をつけていないのに、
未来の私はすでに書いてしまったらしい。
そしてAIは、未来の完成品を勝手に引用しているのだ。
仕方がない。
ここまで宣伝されたら、
本編を書かないわけにもいかない。
私は深呼吸して、
新規ファイルを開いた。
書き出しの一行目は、
予告編のせいで妙に書きやすかった。
怖いのは、
AIが描いた“未来の私”に、
ちょっとだけ負けたくなかったことだ。
