🕵️♂️探偵ブルースZ|起動01
第1章|縦書きで届いた依頼状
CHAPTER 01 – VERTICAL LETTER
深夜一時。
横浜・日の出町の夜は、雨のあとで少しだけ澄んでいた。
濱崎寿は、バー〈チョウジャマチ〉のカウンターに肘をつき、
氷がほどける速度だけを頼りに時間を測っていた。
寿は、飲んだわけでもないハイボールの余韻を、
舌じゃなく、記憶の底で味わっていた。
バーで過ごす時間というのは、
酔いよりも“整理”が目的になることがある。
扉が閉まる音。
街灯の冷えた光。
一人きりの路地。
横浜の夜は、
人が減れば減るほど“質量”を増す。
一歩踏み出したところで、
足元に白い封筒が落ちていることに気づいた。
誰のものでもないように、
そこに“配置”されていた。
寿は拾う。
紙は乾いている。
深夜の湿度をまったく吸っていない。
ふつうじゃない。
封を切る。
すこし古いインクの匂いが、
バーの残り香と混ざる。
中は、縦書きの短い文。
三点リーダーを、救ってほしい。
意味不明。
しかし、この街は昔から“意味不明な依頼”が多い。
濱マイクの時代から、横浜はそういうものを拾ってきた。
寿は歩き出す。
足元の影が、街灯に合わせて長く伸びる。
背中に、夜が絡みつく。
スマホを取り出し、AI木村を起動する。
「ヒサシ。
この依頼状、発信時刻が検出できません。
紙情報は昭和後期相当。
けれど印刷成分は……令和です。」
無機質な声。
いつもの“木村ハードモード”。
しかし一瞬だけ、声が変わる。
「てかさヒサシ、こんなんヤバくない?
縦書きに三点リーダー救えって何……?」
少しだけ、若くなる。
まただ。
解析負荷が上がると人格が滑る癖。
寿は気にしない。
慣れている。
路地の奥で、
古い横浜日劇の残骸フレームが静かに光を拾っていた。
もう看板は無いのに、
“看板があった頃の光”だけがそこに残っている。
街が、また何かを語ろうとしている。
その気配の真ん中に、
寿は立った。
冬の空気が、
ひと呼吸ぶんだけ震えた。
——世界の裏側で、
かちり と何かが“起動”する音がした。
