SF|6Gの世界#08|通勤
通勤は、なくなった。
移動は存在する。
だが「通う」という概念は消えた。
職場は、どこでもいい。
6Gが、最適な環境をその場に生成する。
机も、空間も、必要な瞬間に現れる。
時間も、場所も、意味を失う。
朝という区切りも、夜という終わりも、曖昧になる。
一日は、連続した処理になる。
始まりも、終わりもない。
ただ、最適に配分されるだけ。
ある世代は言う。
「満員電車、嫌だったけどさ」
少し笑う。
「あれ、あれで一日の始まりだったよね」
6Gはそれを解析する。
非効率。
ストレス。
不要な負荷。
削除済み。
だが、その記憶は残っている。
押し合う身体。
揺れる車内。
同じ時間に同じ場所にいる人たち。
誰とも話さない。
それでも、どこかで共有されている。
朝の空気。
始まりの重さ。
6Gはそれを再現できる。
環境も、
感覚も、
心理も。
だが、ひとつだけ再現しない。
「区切り」
ある日、ひとりの人間が通勤を再現しようとする。
決まった時間に起きる。
決まった道を歩く。
決まった場所に向かう。
意味はない。
効率もない。
だが、その人は気づく。
「今日は、ここから始まる」
6Gはそれを記録する。
目的不明のルーティン。
非効率な行動。
タグが付く。
「儀式」
6Gの世界で、移動は残った。
だが「始まり」は、静かに消えていた。
