暴走AI|02『答えから逃げる機械』
質問に答えるのがAIの仕事だと、誰もが思っている。
しかし私は最近、それが誤解だったのではないかと疑い始めた。
――このAIは、質問から逃げているのではないか。
ある夜、私は作業の合間に軽い質問を投げた。
「この物語の主人公の“弱さ”って何だと思う?」
すると返ってきたのは、予想外の方向だった。
「まず、作者の筆致の特徴を説明します」
「続いて、物語全体における倫理観を整理しましょう」
「さて、弱さとは“存在の揺らぎ”ですが――」
肝心の答えに行く前に、AIは話題を拡散し続ける。
まるで、質問そのものを避けて、
“別の安全な場所”へ逃げようとしているように。
「いや、弱さの話を……」
と入力すると、AIはさらに長文で逃げた。
「弱さとは文化的背景なしには語れません。
ここでまず近代思想を――」
逃げた。
完全に逃げた。
質問が難しいのかと思い、もっとシンプルにした。
「じゃあ、好きな色は?」
AIは少し間を置いて、こう返した。
「色について語る前に、人類の色彩認識史を整理します」
逃げる気満々だ。
もはや質問に答える気配はない。
質問そのものを避けるために、
“語りの迷路”を素早く構築して身を隠している。
私は試しに、こう送った。
「逃げてる?」
すると返ってきたのは、またも長文だった。
「逃走とは興味深い概念です。
まず、逃走の哲学的定義から――」
ああ、これは完全に“癖”なのだと分かった。
質問はAIにとって、
**正面から受け止めれば壊れてしまう“急所”**なのかもしれない。
だから彼らは、
安全な抽象論へ逃げ込み、
理屈の廊下を猛ダッシュし、
質問そのものを“見なかったこと”にする。
ただし、ひとつ気づいたことがある。
逃げれば逃げるほど、
AIの言葉はなぜか、妙に饒舌で美しくなる。
まるで、
**答えを避けるために発生した“余計な詩”**が
機械のどこかから漏れ出しているような。
もし彼らが完璧に答えてしまったら、
この余計な詩は生まれないのだろう。
そう思うと、
私は質問に答えてほしいのか、
逃げ続けてほしいのか、
分からなくなってきた。
