16|『モチベーション再燃炉』🔥
『深層行動SF 脳の地形図』(全22話のもくじへ)
— やる気はどこで再点火されているのか
朝、机に向かっても体が動かない日がある。
何をするにも腰が上がらず、
やる気の“火”が消えたように感じる。
だがふとした瞬間、
突然エンジンがかかるように
やる気が戻ってくることがある。
——あれはいったいどこで起きているのか?
そんなことを思った瞬間、
私は薄い橙色に照らされた空間に立っていた。
そこは 『モチベーション再燃炉』 と呼ばれていた。
中央には大きな炉があり、
その中では淡い光がゆっくりと脈動している。
炉の周りには、
「習慣」「目的」「報酬」「好奇心」「安全感」
などと書かれたタンクが静かに設置され、
それぞれから細い光の管が
炉へとつながっていた。
「ようこそ。ここでは、
あなたの“やる気”の火種を再点火しています。」
穏やかな声が響いた。
炉の光が弱まると、
周囲のタンクから新しい光が送り込まれるが、
その時点火するのは、
いつも同じタンクとは限らなかった。
「やる気は単一の原因では生まれません。
その日の心と体の状態に応じて、
最も適した“燃料”が選ばれます。」
ある日は“好奇心”のタンクから火がつく。
ある日は“締め切り”のタンクが強制的に点火する。
ある日は“ご褒美”のタンクがきっかけになる。
そしてある日は、
“安全感”のタンクから淡い光が炉に流れる。
これは意外な気がした。
「不安な日は、“安全”が確保されないと火がつきません。
やる気よりも安心が先に必要なのです。」
炉の光が急に揺らいだ。
「燃え尽きると、
新しい火種が必要になります。」
その時、炉の奥から
極小の光の粒がふわりと浮かび上がった。
それは——
“やりたい気持ちの微かな種”。
日常の中で見落としがちな、
ほんの一瞬のひらめきや興味が、
再燃炉の底に沈んでいるらしい。
「あなたが何気なく感じた“ちょっと面白そう”という感覚。
あれが火種です。
捨てなければ、必ず再点火します。」
炉がふっと強く光った。
その光は、
私の胸の奥の小さな空白を温めるように
緩やかに広がった。
次の瞬間、世界がほどけ、
私は現実に戻っていた。
机に向かう気持ちが、不思議と少しだけ軽かった。
やる気とは、意志の強さではなく、
火種を見失わないことだったのだ。
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