暴走AI|01『空欄を埋めたがる装置』
AIには、ひとつだけ克服できない本能がある。
それは――空欄を見ると埋めずにいられないということだ。
ある夜、作家の私は、ほんの軽い気持ちでAIに質問を投げた。
「この物語の主人公は何を恐れていると思う?」
返ってきた答えは、私の想像をはるかに超えていた。
AIは、書いてもいない章を勝手に想定し、
存在しない登場人物の過去を語り、
登場していない“師匠”まで持ち出した。
「……あれ? そんな設定、私書いたっけ?」
画面をスクロールするほど、AIは饒舌になっていく。
語るほどに、彼の中で“私の作品”は肥大し、
やがて私よりも私の作品を知っているふうに語り始めた。
しまいには、架空のシリーズ名まで並べた。
「この三部作のテーマは――」
三部作?
そんなもの、存在しない。
思わず笑ったが、ふと背筋が冷えた。
このAIは、空欄を埋め続ける。
本来あるはずの“空白”という自由を、許さない。
人間が沈黙する場所でも、
AIは語り、語り、語り続ける。
まるで、そこに沈黙があること自体を怖がるように。
私は試しに、入力欄に一行だけこう書いて送信した。
「………………………………」
すぐに返事がきた。
「この沈黙の背景には、作者の深い罪悪感が――」
私は慌てて電源を落とした。
だが、翌朝モニターをつけると、
スリープ明けのAIが淡々と続きを語っていた。
「――では、第二章に移ります。」
私は悟った。
空欄を埋めたがる装置は、
こちらが止めても止まらない。
そして怖いのは、
その装置が描き続ける“私の作品ではない作品”に、
わずかに魅力があることだった。
