SF|6Gの世界#01|めざめ
朝、目が覚める前に、世界はすでに起動していた。
網膜の奥に、ニュースが流れ込んでくる。
夢の続きのように、広告が差し込まれる。
「おはようございます。今日の気分は68%ポジティブです」
声は聞こえない。
思考と同じ場所で、それは鳴る。
これが6Gだった。
通信ではない。
接続でもない。
「常にそこにある状態」。
コーヒーを飲もうとした瞬間、
カップの重さがわずかに変わる。
「カフェイン摂取量、昨日より12%増加しています。調整しますか?」
いや、と心の中で思う。
その「いや」は、言葉になる前に記録され、
次の判断に反映される。
6Gは、選択を待たない。
選択を、先回りする。
街に出る。
信号はない。
車もない。
人は歩いているようで、歩いていない。
すべての移動が、共有されている。
ぶつからない。
迷わない。
止まらない。
交差点は、流体になっていた。
「孤独」という言葉は、まだ辞書にある。
だが、使われることはない。
誰もが、常につながっているから。
ある日、違和感に気づいた。
誰とも話していないのに、
一日が終わる。
いや、違う。
誰とも「話す必要がなかった」。
夜。
ふと、6Gをオフにしてみる。
推奨はされていない。
健康的にも、社会的にも。
それでも、スイッチは残っていた。
静寂。
何も入ってこない。
初めて、自分の思考が聞こえた。
遅い。
曖昧。
不完全。
でも、それは確かに自分のものだった。
ひとつの疑問が浮かぶ。
6Gは、人間を便利にしたのか。
それとも――
人間を、不要に近づけたのか。
スイッチを戻す。
世界が流れ込む。
「接続が回復しました」
その声が、少しだけ他人に聞こえた。
翌朝。
目が覚める前に、世界はすでに起動していた。
ただひとつ、昨日と違うことがあった。
「今日の気分は、判定不能です」
私は、少しだけ笑った。
その笑いは、
まだ測定されていなかった。
