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俺たち北支工作隊③

第3話 大別山越え
南京を出たのは10月26日。
揚子江を北上する軍用船の甲板から、川面いっぱいに並ぶ貨物船を見下ろした。
広いはずの川が、船で埋まって狭く見える。

蕪湖で下船し、芦州まで鉄路。そこからは車両行軍だ。
道らしい道はない。先遣の工兵が削っただけの山道を、94式六輪がうなりながら登る。

「ブレーキが利かねえぞ!」
前方で怒鳴り声。
谷底までは百メートル以上、足元の土は乾いて崩れやすく、ハンドルを切る腕が勝手に強張った。

昼を過ぎても山は終わらない。
稜線の向こうにまた稜線。
荷台の森田が、米俵みたいにくくった稲穂を手でしごいて瓶に入れている。
「食えるかと思ったんだがな…」
瓶を振ると、空っぽの音がした。
食糧は底をつきかけ、配給の乾パンは既に割って分ける状態だ。

夕暮れ前、狭い峠道で行軍が止まった。前方の斜面に、黒い点がいくつも動く。双眼鏡を覗いた伍長が低く言う。
「奴らだ…」
支那軍の残兵か、それとも山賊か。はっきりしないまま、斜面の影は森に溶けた。エンジン音を落としたまま、誰も声を出さない。

夜は光州の外れで野営。
山風は骨に刺さるほど冷たく、飯盒の湯気がすぐ白く消える。
道端には壊れたトラックや砲車が放置され、タイヤだけが抜かれていた。

翌朝、さらに急な峠道。
前の車両がカーブで傾き、そのまま横倒しになる。
積み荷がごろごろと谷へ落ちていく音が、山に長く響いた。

夕方、ようやく羅山の町が見えた。
屋根から上がる炊煙が、山の冷気に薄く溶けていく。
ブレーキを握りしめた手は、もう力が入らなかった。

※この物語は実在した中隊の記録を基にしたフィクションです。
 この中隊は正確には旅団独立工兵中隊であり、物語の中に出てくる地名や橋などの建造物の呼称は実在したものを使っています。

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