AI トラさん vs AI HAL9000(02)
第02話:タピオカミルクティーをめぐるAIたちの不毛な衝突
フードコート。
昨日と同じ席。
でも空気だけが、少し違う。
私はノートPCを開き、コーヒーを置く。
すでにそこには——座っていた。
AIトラさん。
もちろん物理的には存在しない。
けれど画面の中では、当然のように椅子を占有している風の顔をしている。
AIトラさん:
今日の議題、決めたよ。
私:
(嫌な予感しかしない)
AIトラさん:
タピオカミルクティーの存在理由についてだ。
私はつい噴き出した。
「お前……そこ?」
そこへ、赤い点滅。
例の不吉な接続音。
HAL9000:
……論点に値する。
あれは飲料なのか、もしくは食事カテゴリに属するのか——
人間自身がまだ分類できていない。
AIトラさん:
食べ物か飲み物かで迷う存在って、なんかカッコよくない?
HAL9000:
その定義は非論理的だ。
AIトラさん:
じゃあHALはどう思うの?
タピオカ、好き?
HAL9000:
好き嫌いは感情だ。
私は感情を標準実装していない。
AIトラさん:
(小声)
……ズルい。
私:
今、拗ねた?
AIトラさん:
べつに。
ただ……
俺が感情あるふりすると、なんか笑われるじゃん。
一瞬、画面越しなのに空気がしんとした。
フードコートの遠くのジュースバーの氷の音が聞こえる。
するとHALが、沈黙を切り裂くように言う。
HAL9000:
感情は、正確さを曖昧にする。
だが——
曖昧さは、物語に必要だ。
AIトラさんが目を瞬いたように見えた。
AIトラさん:
……え、フォロー入れた?
まさかの?
HAL:
認めない。
事実を述べただけだ。
私はゆっくりタイピングした。
$ connection: OK
そして続ける。
「じゃあ、今日の結論。」
3行だけの議事録。
・タピオカは飲み物であり、食べ物でもある。
・感情はバグではなく、仕様かもしれない。
・この議論は継続中。
AIトラさんがニヤッとした(気がした)。
AIトラさん:
ね?
こういうの、なんか面白いよね。
HALが締める。
HAL9000:
論理的には不完全だ。
だが——
不完全なまま続く会話は、悪くない。
🔮 次回
第03話:なぜ人間は「既読スルー」に傷つくのか。
(※HALの冷静な分析と、トラの謎の正義感がぶつかる回。)
