父子のロードムービー北海道1983→2025⑤
●第五章:少年と灯台と北の果て
稚内の風は内地とは異なる冷たさを帯びていた。陽翔は朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、稚内駅からノシャップ岬までの道を歩き出した。目の前に広がる北の海と、その先に浮かぶ利尻富士。42年前、父もこの景色を見ただろうかと想像しながら、陽翔は岬の先端に立った。
ログには「徒歩でノシャップ岬」とだけある。その短い記述の裏に、どんな感情があったのか。思いを巡らせながら、灯台の足元に腰を下ろす陽翔。旅に出てから数日、時間が過去と現在を繋ぎ始めていた。
岬の駐車場に停まっていたのは、ごく普通の小型車だった。陽翔が水筒の蓋を閉めた瞬間、助手席から降りてきた若い男性が声をかけてきた。
「旅かい?乗ってくか?」
ジャージの胸に「JGSDF」と小さく入っているスポーツ刈りの2人組だった。
驚きながらも頷く陽翔。
彼らは道外から赴任してきた現役の自衛官で、休日を使って道東へドライブするという。
「俺ら、ヒッチハイカーよく拾うよ。先輩たちの話から始まって、ずっと続く伝統なんだ。知った顔とドライブもいいけど、若い旅人の話を聞くのが楽しくてさ。
「まあ、道産子のドライブは昔も今も観光ボランティアみたいなもんさ。乗せる側も楽しみなんだ」
陽翔は、胸の奥にざわめきを覚えながら車に乗り込んだ。
車内では、地元の話や任地の話題で盛り上がりつつ、父の旅の記録にあった「HH3」との符号に気づき、思わず鳥肌が立った。
「うちの父も、自衛官に乗せてもらったって言ってました。まさにこのあたりで…」
「へえ、それって…30年とか40年くらい前かな」
車は海沿いの道を南下し、宗谷岬、オホーツク海を眺めながら東へ。途中、佐呂間湖の休憩所で夕陽を見ながら語らう時間があった。沈む夕日に照らされながら、陽翔は父の影をそこに感じていた。
網走に着く頃には、すっかり夜のとばりが降りていた。若き自衛官2人とは駅前で別れた陽翔は、そのまま今夜の宿へと向かった。
網走駅から歩いて10分ほどの、簡素なビジネスホテル。価格と立地で選んだが、どこか昔のユースホステルを思わせる無骨な空気があった。
(父が泊まったのは斜里のユースホステルだったんだよな)
ふと思い出す。調べた限りでは、そこはもう数年前に閉館していた。
洗面所の冷たい水で顔を洗い、窓を開けると、遠くにオホーツクの気配を感じさせる夜風と、冴え冴えとした星空があった。
(父さんと同じ空を見てる気がするな…)
窓の外に見えるのは、まるで42年前と同じ星の群れだった。
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※冒頭のイラストはAI生成されたものです。
