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ミシュナ『Rosh HaShanah』法理研究 第7回:キスレヴ・アダル・イヤールにおける使者派遣規定(1章3節後半)

 本稿は口伝律法ミシュナ第2部『Moed(モエド)』に属する『Rosh HaShanah(ローシュ・ハシャナー)』の第7回目の解説である。

 今回は『Rosh HaShanah』1章3節の後半部を取り上げ、キスレヴ、アダル、イヤールにおける使者の派遣について解説する。ChanukahおよびPurimにおいては、使者派遣の有無に関わらず1日の祝いになる法理、閏年においてはPurimは2番目のアダルの月に祝う法理、閏年においては、1番目のアダルの月はmeubarになる法理、また神殿時代のイヤールの月における「2番目の過越祭」の為の使者派遣について詳解する。


前回の振り返り:新月聖別の要件と、ニサン・アヴ・エルール・ティシュレにおける使者派遣の規定

 前回は新月の聖別の実務的手続き、月の構成日数の法理、そして『Rosh HaShanah』第1章3節に基づき、離散の地(ディアスポラ)への使者派遣について解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】新月の聖別における証言と計算の相互補完

 最高法院(Beit Din:ベイト・ディン)による新月の宣言(Kiddush HaChodesh:キッドゥーシュ・ハホデシュ)は、目視証言と天文学的計算の両方を用いて行われた。

①証言の審査

 2人の証人による目撃証言を基本とするが、法廷は天文学的な計算に基づき、あり得ない位置での目撃証言などは厳格に却下した。

②宣言の効力

 証言が受理され、法廷が「聖別された」と宣言することで初めてその日が新月祭(Rosh Chodesh:ローシュ・ホーデシュ)として確定した。

【2】月の構成日数:chasserとmeubar

 1ヶ月の長さは29日間または30日間のいずれかになる。

①chasser(ハセル:欠損)

 前回の新月から30日目に証人が現れ、その日が新月と宣言された場合、前月は29日間となる。

②meubar(メウーバル:妊娠)

 30日目に証人が現れなかった場合、翌日が自動的に新月となり、前月は30日間となる。

③固定暦への移行

 この証言制度は西暦358年まで維持されたが、迫害による最高法院の危機に際し、ヒレル2世が現在の天文学的計算に基づく固定暦を定めた。

【3】使者派遣の義務(ミシュナ1章3節)

 最高法院が新月を宣言すると、祭日の正確な日付を遠方の共同体に知らせるため、特定の月に使者が派遣された。

①ニサンの月

 過越祭(Pesah)を正しい日に祝うために送られた。

②アヴの月

 神殿破壊の断食日(Tishah B'Av:テーシャ・ベアヴ)のために送られた。

③エルールの月

 翌月のRosh HaShanahへの備えとして送られた。

④ティシュレの月

 贖罪日(Yom Kippur:ヨム・キップール)と仮庵祭(Succot:スコット)の確定のために送られた。

【4】断食日と「2日間の祝祭日」の特例

 使者が届かない地域での混乱を避けるため、いくつかの法的な緩和措置や習慣がある。

①祝祭日の2日間遵守

 日付の疑いが生じる地域では、念のため2日間祭日を祝う習慣になっていたが、この習慣は固定暦となった現代でもラビの法令として維持されている。

②断食日の特例

 ただし、アヴの9日や贖罪日の断食については、2日間の連続断食が身体的に過酷であるので、使者が届かない地域であっても1日のみ行うことが認められた。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Rosh HaShanah』法理研究 第6回:新月の聖別(Kiddush HaChodesh)の法的要件、chasserとmeubarの数理法理、およびニサン・アヴ・エルール・ティシュレにおける使者派遣の規定(1章3節)

https://note.com/mishnah/n/n36f3ecdba661


キスレヴの月とChanukahにおけるラビ法令


 前回は「Rosh HaShanah」1章3節を取り上げ、使者が送られる6つの月の内、4つを扱った。今回は残りの2つの月について解説する。まずは本文を引用する。

 キスレヴ。ハヌカの為に。

(Rosh HaShanah 1:3)

 ハヌカ(Chanukah)は教会には馴染みが薄いが、マカバイ時代にシリアによって汚された神殿を取り戻し、再奉献した史実に基づいている。

 36ユダと兄弟たちは言った。「見よ、我らの敵は粉砕された。都に上り、聖所を清め、これを新たに奉献しよう。」 37そこで全軍が集結し、シオンの山を目指して上って行った。

(マカ上4:36~37)

 なお、マカバイ記には書かれていないが、この時聖所内の七枝の燭台(menorah)が8日間燃え続けたという奇跡が起きている。

 Chanukahはこの史実に基づき、キスレヴの25日から8日間祝われる。しかしChanukahに関しては、使者が届かなかった遠方の地域でも「追加の1日」を加えるとはされていない。その理由は、Chanukahがラビによって制定された法令によるからである。

Chanukahにおける使者非到達地域の法解釈:ハラーハー文献(Minchat Chinuch / Arvei Nachal / Shulchan Aruch)の比較


 これに関してMinchat Chinuch(ミンハット・ヒヌーフ)においては、使者の届かなかった地域では9日間祝われていたとされている。

 他方Arvei Nachal(アルヴェイ・ナハル)ではmenorahの奇跡は7日間であり、8日間の期間に、余分な1日が含まれているとされている。

 これらの見解は、Shulchan Aruchにおいて退けられている。そこにはChanukahはどこの場所においても8日間祝われており、使者の到達の有無には関係ないと言われている。また、もしもChanukahが元々7日間の祝いであったのなら、聖地においてその祝いの期間は7日であったろうとも記述されている。

アダルの月とPurimにおけるヨシュア期城壁規定および閏年の数理


 続きには次のように書かれている。

 アダル。プリムの為に。

(Rosh HaShanah 1:3)

 プリム(Purim)というのはエステル記に記されている祭りである。次のように書かれている。

 16王国の諸州にいる他のユダヤ人も集合して自分たちの命を守り、敵をなくして安らぎを得、仇敵七万五千人を殺した。しかし、持ち物には手をつけなかった。 17それはアダルの月の十三日のことである。十四日には安らぎを得て、この日を祝宴と喜びの日とした。 18スサのユダヤ人は同月の十三日と十四日に集合し、十五日には安らぎを得て、この日を祝宴と喜びの日とした。 19こういうわけで、地方の町に散在して住む離散のユダヤ人は、アダルの月の十四日を祝いの日と定め、宴会を開いてその日を楽しみ、贈り物を交換する。

(エス9:16~19)

 この箇所から、次のことが分かる。

①地方の町

 アダルの月(第12の月)の13日に戦い、14日に勝利を祝った。

②スサ

 アダルの月(第12の月)の13日と14日に戦い、15日に勝利を祝った。

 以後、ヨシュアの時代に城壁のあった町は、アダルの月の15日に祝い、ヨシュアの時代に城壁のなかった町はアダルの月の14日に祝うこととされている。

 アダルの月に使者が送られるのは、Purimを正しい日付で祝う為である。しかしPurimの祭りもChanukah同様、トーラによって規定されたものではないので、使者の行かない所でも1日だけお祝いすればよい。

Beit Dinによる閏年の宣言と、1番目のアダルの月のmeubar要件


 タルムードのGemaraでは、閏年の場合について触れられている。すなわちBeit Dinが閏年にする決定をした場合、Purimは2番目のアダルの月に祝う。

 閏年の条件はアダルの月の前に判明しているものであり、通常Beit Dinは事前に13番目の月があることを宣言しているものである。しかしこの箇所のミシュナでは、2番目のアダルの月の為の使者については書かれていない。

 それは閏年のアダルの月が必ずmeubarであり、30日間で構成されるので、2番目のアダルの月のRosh Chodeshがいつであるのか明らかであるから。

神殿時代におけるイヤールの月とPesach Sheni


 「Rosh HaShanah」1章3節の最後には次のように書かれている。

 神殿があった時代においては、イヤール。2番目の過越祭の為に。

(Rosh HaShanah 1:3)

 2番目の過越祭はPesach Sheni(ペサ・シェニ)と呼ばれる。祭儀的な汚れの為、または遠方にいた為にニサンの月の14日に過越のいけにえを献げることが出来なかった場合、代わりのいけにえを献げることの出来る日である。

 これに関して、民数記9章10~11節に次のように書かれている。

 10あなたたち、もしくはあなたたちの子孫のうちで、死体に触れて汚れている者、あるいは遠く旅に出ている者も、主の過越祭を祝うことができる。 11第二の月の十四日の夕暮れにそれを祝い、酵母を入れないパンと苦菜を添えてそのいけにえを食べなさい。

(民9:10~11)

 トーラ本文の「第二の月」はイヤールである。Pesach Sheniはイヤールの月の14日に屠られた。その為に神殿時代にはイヤールの月にも使者が送られたものである。

 以上でミシュナ「Rosh HaShanah」1章3節の解説を終えた。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Rosh HaShanah』法理研究

https://note.com/mishnah/n/nfbeb416fd084


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)

https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e

 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c

(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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