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ミシュナ『Rosh HaShanah』法理研究 第6回:新月の聖別(Kiddush HaChodesh)の法的要件、chasserとmeubarの数理法理、およびニサン・アヴ・エルール・ティシュレにおける使者派遣の規定(1章3節)

 本稿は口伝律法ミシュナ第2部『Moed(モエド)』に属する『Rosh HaShanah(ローシュ・ハシャナー)』の第6回目の解説である。

 今回は最高法院(Beit Din:ベイト・ディン)による新月の聖別(Kiddush HaChodesh:キッドゥーシュ・ハホデシュ)の厳格な法的規定、および天文学的計算と目視証言の補完関係を解説する。

 更に前月の構成日数による「chasser(ハセル/欠損)」と「meubar(メウーバル/妊娠)」の法理、西暦358年のヒレル2世による改暦の歴史的転換点を網羅。

 その後『Rosh HaShanah』1章3節に基づき、祭日確定をディアスポラへ通知するため、ニサン・アヴ・エルール・ティシュレにおける「使者派遣」の法的義務と例外(断食日の緩和措置)を詳解する。


前回の振り返り:個人の裁き、水の裁き、ユダヤ暦の数理、および新月の聖別の法的規定

 前回は『Rosh HaShanah』第1章2節から3節を取り上げ、Rosh HaShanahにおける個人の裁き、Succotにおける水の裁き、ユダヤ暦の数理の3つのテーマを解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】個人の裁きと分配の法理(1章2節)

 Rosh HaShanah(ティシュレの1日)に行われる神の裁きの性質について記述されている。

①個別裁きの比喩

 全人類は神の前を「若い羊のように」1人ずつ通り、個別に裁かれる。これは、家畜の十分の一税(maaser beheimah:マアセル・ベヘマー)を選ぶ際に、家畜を狭い通路に一列に並べて1頭ずつ数える情景に基づいている。

②全体量と個人の分け前

 Ranの解釈によれば、三大祭りの時期には世界全体の収穫・雨量等の「総量」が決定されるが、Rosh HaShanahにはその総量の内から「各個人がどれだけの分け前を受け取るか」や「個人の生死」が決定される。

【2】仮庵祭(Succot:スコット)と水の裁き

 雨季の始まりにあたる仮庵祭は、水(雨)に関する裁きの時期とされている。

①水の奉献(nisuch hamayim:ニスーフ・ハマイム)

 この儀式は、来るべき1年の雨に神の祝福を呼び込むためのものである。

②倫理的条件

 豊かな降雨を得るための鍵は、mikvehや手洗いなどの「水に関連する戒め」をイスラエルの民が適切に守っているかどうかにかかっているとされる。

【3】ユダヤ暦の数理と構造

 新月の聖別(Kiddush HaChodesh:キッドゥーシュ・ハホデシュ)を理解するための前提として、ユダヤ暦の計算体系が示されている。

①太陰暦の必然性

 ユダヤ暦は神が新月を指し示して命じた(出エジプト記12章2節)ことに基づく、自然現象に即した暦である。

②独自の単位「chalakim(ハラキーム)」

 1時間を1,080に分ける「ハラキーム(chalakim)」という単位を用いる(1 chalakimは約3.33秒)。これに基づき、正確な1ヶ月の長さは「29日12時間793 chalakim」と定義される。

③モラッド(molad)

 月が更新される瞬間のことであり、この間隔が正確な1ヶ月の長さとなる。

【4】新月の聖別の法的規定(1章3節の導入)

 新しい月の開始を宣言する儀式には、厳格な法的制約がある。

①最高法院(サンヘドリン)の権限

 エルサレムの最高法院の認可を得た3人の判事が宣言を行う。マイモニデスによれば、この3人は必ずしもサンヘドリンの正式メンバーである必要はない。

②時間と場所の制約

 聖別は原則としてイスラエルの地で行われなければならず、また日中にのみ行うことが出来る(夜間は不可)。

③開始時間の原則

 トーラの規定により、実際のmoladの時刻に関わらず、新しい月は常に日没から始まる。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Rosh HaShanah』法理研究 第5回:Rosh HaShanahにおける個人の裁き、Succotにおける水の裁き、及びユダヤ暦の数理

https://note.com/mishnah/n/na90428c7307b

最高法院(Beit Din:ベイト・ディン)による証言審査と天文学的計算の相互補完


 今回はKiddush HaChodeshの手続きについてから開始する。

 Beit Dinは、moladの直後に月を目撃した2人の証人による証言に依拠しなければならない。しかし法廷は天文学的な計算を完全に排除していたわけではなく、新月が見える筈がない時に見たという証言を受けた場合、または計算上あり得ない位置で見たという証言をされた場合、その証言は却下した。証人の信頼性を厳格に審査し、尋問を行った後、法廷はその日をRosh Chodesh(新月祭)として聖別し、宣言した。

月の構成日数(chasserとmeubar)の定義と祭日の不確実性


 Rosh Chodeshの宣言は、証人の証言に基づきBeit Dinの判断で決められる。しかしこの手続きは全面的ではない。

 例えば天候の事情で前回のRosh Chodeshから33日目になって、新月があったことが確認出来たとしても、その日にRosh Chodeshが宣言されるのではない。

 Rosh Chodeshは、前回のRosh Chodeshから30日目、または31日目のいずれかにしかなり得えない。これにより1ヶ月は29日または30日のどちらかとなる。

 もし証人が前回のRosh Chodeshから30日目に現れ、その日Rosh Chodeshが宣言された場合、前月は29日間となり、29日間の月はchasser(ハセル)と呼ばれる。chasserは欠損を意味する。

 もし証人が前回のRosh Chodeshから30日目に現れない場合、翌日は自動的にRosh Chodeshとなる。前月は30日間あったことになるが、30日間で構成される月はmeubar(メウーバル)と呼ばれる。meubarはマイモニデス(Maimonides)によると、妊娠していること(pregnant)を意味する。

 新しい月の開始に2つの可能性があったので、トーラで何月の何日であるのか、日程が明示されている祭日について、宣言があるまで不確かであることになる。

 Beit Dinは正しい日に祭日を祝うことが出来るように、人々に決定を知らせなくてはならない。それが間に合わない場所では、1日余分に祭日を祝うことになる。

ヒレル2世の固定暦への移行とミシュナ1章3節「使者派遣」の義務


 証言に基づくKiddush HaChodeshの精度は、西暦358年(ユダヤ暦4118年)まで維持されていた。聖地におけるユダヤ人の共同体は外国の迫害の為に度々危機に晒されたが、この頃Beit Din自体の存続が危なくなったので、Hillelの13代目の子孫であるヒレル2世が証言に基づく制度を廃止し、現在のユダヤ暦の制度を定めた。

 新しい制度は天文学的な計算とハラハーの計算に基づく暦であり、メシアが到来するまで、すべてのRosh Chodeshを聖別するものとして機能する。

ミシュナ『Rosh HaShanah』1章3節の注解:使者派遣の義務


 以上を前提に口伝律法ミシュナ「Rosh HaShanah」1章3節に入る。まずは本文を引用する。

 6つの月において、使者たちが遣わされる。

(Rosh HaShanah 1:3)

 Beit DinがRosh Chodeshを宣言すると、すぐに使者がイスラエルの全域および離散の地(ディアスポラ)へ派遣される。これは、遠方の共同体にどちらの日が新月として宣言されたかを知らせるためである。

 「使者たち」と複数形が使われているのは、マイモニデス(Maimonides)によると、1人の使者では信用出来ないという事ではない。むしろ、あらゆる方向に多くの使者が送られた事実を反映している。

 毎月使者が使わされたのではなく、祭日などの関係で必要な月に送られた。以下、「Rosh HaShanah」では使者が必要であった月が列挙される。次のように書かれている。

ニサンの月における使者派遣:過越祭(Pesach)の確定

 ニサンの月に。Pesachの為。

(Rosh HaShanah 1:3)

 過越祭、またその後の7日間の除酵祭の期間において、ニサンの月の15日はYom Tovである。ニサンの月に使者が送られたのは、人々がニサンの月の15日に祭日を祝うことが出来るようにする為である。

 七週祭(Shavuot)については、トーラでニサンの月の16日から50日目と決まっているため、別途通知する必要はない。

 使者が届かなかった地域の人々は、正しい日付に疑いが生じるため、念のために2日間祝わなければならない。これは、別途正しい日付が判明したとしても、その義務が残った。他の祭日との平衡の為である。

 現代では、ヒレル2世による固定カレンダーがあるため、祝祭日の日付に疑いはない。しかしラビの法令により、かつて使者が届かなかった地域では、今でも2日間の祝祭日遵守の習慣が維持されている。

アヴの月における使者派遣:神殿破壊の断食(Tishah B'Av)の規定

 アヴの月に。断食の為に。

(Rosh HaShanah 1:3)

 アヴ(第5の月)の9日はTishah B'Av(テーシャ・ベアヴ)
と呼ばれる。エルサレムの神殿が破壊されたことを記念するものだが、注意するべきは第1神殿、第2神殿両方破壊された日であるという事である。

 アヴの月にはTishah B'Avの断食があるので使者が送られた。これはトーラの命令ではなく、ラビの法令による。2日間の断食は身体的に非常に過酷であるため、使者が届かなかった地域でも2日間断食することは求められていない。

エルールの月における使者派遣:翌月のRosh HaShanahへの備え

 エルール。Rosh Hashanahの為に。

(Rosh HaShanah 1:3)

 エルール(第6の月)は翌月初日のRosh HaShanahの為に通知された。エルールの月はほぼ常に29日間でchasserであったので、人々は30日目がRosh HaShanahになると想定して祝ったものである。

 しかし現在Rosh HaShanahは2日間祝っている。その詳細はミシュナ「Rosh HaShanah」4章4節で記されているので、後の回で扱う。

ティシュレの月における使者派遣:贖罪日(Yom Kippur)と仮庵祭(Succot)の確定


 続きには次のように書かれている。

 ティシュレ。祭日の決定の為に。

(Rosh HaShanah 1:3)

 ティシュレの月の新月を知らせるために使者が送られたのは、Yom Kippur(ヨム・キップール:贖罪日)とSuccot(仮庵祭)の正確な日付を確定させる為である。

 上述の通り、Rosh HaShanahはエルールの月がchasserの前提で祝われたが、エルールの月がmeubarである可能性もわずかにあったので、使者が派遣されたものである。

 ただしアヴの9日(Tishah B'Av)と同様、Yom Kippurについても、使者が届かなかった地域で2日間祝うことは行われなかった。

 これは2日間の断食が非常に過酷であるので、人々は「エルールは30日間にはならない」という前提に立って1日だけ断食を行ったものである。

 次回は使者が送られるその他の機会について、続きから開始する。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Rosh HaShanah』法理研究

https://note.com/mishnah/n/nfbeb416fd084


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)

https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e

 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c

(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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