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ミシュナ『Gittin』法理研究 第2回:聖地国内における代理人の証言免除、「異議を唱える者」の解釈論争、および手渡しの「即時性」の基準(1章3節)

 本稿は口伝律法ミシュナ第3部『Nashim(ナシーム)』に属する『Gittin(ギッティン)』の第2回目の解説である。

 今回は『Gittin』1章3節の法理を徹底解説。聖地(Eretz Yisrael:エレツ・イスラエル)国内における離縁状(get)の宣言不要論の背景にあるlishma(明確な意図)の規則を解明する。

 さらに、getの偽造を主張する「異議を唱える者」の定義を巡るTosafot(トサフォート)とRan(ラン)の解釈論争、代理人が事後的に理性・判断能力を失った場合のハラハー(ユダヤ法)の合理的適用プロセス、そしてGemara(ゲマラー)およびMaimonides(マイモニデス)が定義する手渡しから証言までの時間的即時性(3語の基準)まで、詳解する。


前回の振り返り:海外に関連する離縁状(get)に伴う代理人の証言義務と「lishma(リシュマ)」の法理

【1】離縁状(get)の定義と構造

 離縁状は、夫婦関係を完全に断ち切るための文書であり、以下の2つの要素で構成される。

①toref(トレフ)

 日付、夫婦の氏名、場所、離縁の基本宣言が含まれる根本的な部分。

②tofes(トフェス)

 離婚の法的影響を説明する定型文。

作成にあたっては、特定の女性のために作成するという明確な意図(lishma:リシュマ)が要求される。

【2】代理人と証言の法理

 申命記24章1節の語法解釈に基づき、夫の代わりに離縁状を届ける「送付代理人」や、妻の代わりに受け取る「受領代理人」を立てることが認められている。

また、離縁の成立に必要な証人については、文書への署名を重視するラビ・メイルに対し、タルムードでは引き渡しの事実を目撃すること(引き渡し証人)を重視するラビ・エルアザルの見解が採用されている。

【3】海外から持参する代理人の宣言義務

 ミシュナ1章1節の核心は、海外から聖地(イスラエル)へ離縁状を届ける代理人の義務である。

①宣言内容

 代理人は「これは私の目の前で書かれ、署名された」と証言しなければならない。

②目的

 夫が後から偽造を主張することを防ぐとともに、海外では証人を見つけるのが困難なため、代理人1人の証言で有効性を認めるという寛大な措置を講じている。

③適用範囲

 「海外」とは聖地の外を指すが、頻繁な往来があったバビロンは例外として含まれない。また、海外の異なる地方(メディナ)間や統治区域(ヘゲモニア)間を移動する場合も、同様の宣言が求められる。

【4】地理的境界を巡る論争

 聖地の境界付近の町(レケム、ヘゲル、ケファル・ルディームなど)からの持参について、ラビたちの間で意見が分かれている。

①ラッバン・ガマリエル

 証人を見つけるのが容易でない国境の町(レケム等)でも宣言が必要と主張。

②ラビ・エリエゼル

 混乱を避けるため、聖地のすぐ外側にある町(ケファル・ルディーム等)から聖地(ルド等)へ運ぶ場合も、特別な宣言を適用すべきであると主張する。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Gittin』法理研究 第1回:海外に関連する離縁状(get)に伴う代理人の宣言義務と「lishma(リシュマ:明確な意図)」の法理(1章1節)

https://note.com/mishnah/n/nc806d0f17ef6


ミシュナ『Gittin』1章3節のハラハー:聖地国内におけるgetについての証言免除


 今回はその続きで口伝律法ミシュナ「Gittin」1章3節からである。まずは本文を引用する。

 聖地の内からgetを持って来る者は、言う必要がない、「これは私の目の前で書かれ、署名された」と。

(Gittin 1:3)

 「聖地の内から」はイスラエル国内(Eretz Yisrael:エレツ・イスラエル)を指している。聖地の内側では、人々の往来が非常に盛んであったため、管区をまたぐ場合でも署名の真正性を確認することが容易であった。

 また、離縁状は具体的な意図を持って作成されなくてはならないというlishma(リシュマ)の規則も普遍的に守られていたので、代理人が「私の面前で書かれ、署名された」と証言する必要はなかったものである。

 しかし、もし代理人があえてこの証言を行った場合、その証言は有効なものとして受理される。この場合、海外から持ち込まれたgetと同様の扱いとなり、後から夫がその有効性に異議を唱えることは出来ない。

「異議を唱える者」を巡るTosafot(トサフォート)とRan(ラン)の解釈論争


 続きには次のように書かれている。

 もし異議を唱える者がいるのなら、署名によって確認するべきである。

(Gittin 1:3)

 この箇所の「異議を唱える者」とは、getが偽造であると主張する者であり、第一に夫を指す。夫が沈黙しており、第三者の証人が1人だけで偽造を主張した場合、その主張は無視される。

 Tosafotによると、「異議を唱える者」は夫の土地の第三取得者を含む。すなわち女性がgetに基づいて、第三者の手に渡った土地からketubahを回収しようとする場合、その土地の所有者たちもgetの真正について検証を要求する権利を持つ。

 ミシュナ本文の「異議を唱える者」は複数形であるので、第三取得者を含むという見解は文法的にも整合性がある。

 しかしRanの主張によれば、たとえ夫から土地を買い取った第三取得者からの異議が全くなかったとしても、法廷はgetの署名の真正性が確認されるまでは、ketubahに基づく女性の土地の差し押さえを認めない。

 土地の第三取得者が沈黙していても、当然の手続きとして法廷はgetの署名の検証を要求するという事である。

 Ranの見解に立つと、ミシュナ本文が言及する「異議を唱える者」として唯一該当し得るのは、夫自身のみとなる。夫以外の第三取得者が単独で異議を唱えたとしても、その言葉は法的に無視されるからである。

 夫が1人であるにもかかわらず、ミシュナが「異議を唱える者」で複数形を用いている点について、以下のように説明される。すなわちミシュナがここで複数形を用いているのは、この文脈における夫の特殊な法的権限を強調するためである。

 証人が異議を唱えた場合、それは1人では法的な効力を持たない。2人の証人がいて、初めて有効な異議となる。本箇所のミシュナは夫1人のことを指しているが、証人2人の法的な効力があることを示しているものである。

代理人の事後的な障害(精神的無能力)と署名による検証の法理


 続きには次のように書かれている。

 海外からgetを持って来る者が「これは私の目の前で書かれ、署名された」と言うことが出来ない場合、もし証人が複数いるのなら、署名によって確認するべきである。

(Gittin 1:3)

 海外からgetを持って来る代理人は「これは私の目の前で書かれ、署名された」と証言しなくてはならない。

 ここでは代理人が海外から派遣されたが、getを渡した直後に聴覚や言語障害に陥り、証言が出来なくなった場合を扱っている。

 ハラハー(ユダヤ法)の規定において、聴覚・言語における障害者は法的な意思表示や契約、委任を行うための理性・判断能力が欠落している状態、「mentally incompetent(精神的無能力者)」の状態と見なされる。その為彼らは代理人を務めることが出来ない。

 ここでは海外から委任者の妻の所へ来るまでは理性や判断能力を持っていると見なされる状態であったが、渡した直後にそれを失ったものである。

 原則で言うなら、代理人が証言しない海外からのgetは無効である。しかしgetを渡した直後に障害に陥るケースは特殊である。

 「代理人がgetを渡した後証言出来なくなる」といった通常起こり得ない状況にまで、海外からのgetに関して、原則通りの義務を適用する合理性はない。

 従ってこの場合、getの真正性を別の方法で確認する。それが「署名によって確認するべきである」と書かれている部分である。

 署名によってgetの真正を確認するので、署名している証人は複数であることを要する。「もし証人が複数いるのなら」とは、getに署名している証人のことを言っている。

 以上で「Gittin」1章3節の解説を終えたが、最後に少し細かい点について補足する。

タルムード(ゲマラー)における補足:get手渡しにおける「時間的即時性」の基準


 繰り返し述べた通り代理人は原則としてgetを渡す時に、「これは私の目の前で書かれ、署名された」と証言しなくてはならない。

 「getを渡す時」とはいつくらいまでの時間であるのだろうか?これに関してGemaraに基準が示されている。「3語を話すのにかかる時間」内に証言を始めれば、それは手渡しと同時になされたものと見なされる。その3語とはマイモニデス(Maimonides)によると、次の3つの単語である。

 שלום עליך רבי

 これは「ラビ、あなたに平安があるように」を意味する。代理人はこの3語を発する時間内に証言するべきである。

 しかし次の2つの場合はどうなるであろうか?

①getを手渡し、離縁に関わる他のことをして、3語発する時間の過ぎた後に証言した場合の有効性

②証言した後にgetを渡した場合の有効性

 これらの場合については、Tosafotでは結論が示されていない。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Gittin』法理研究

https://note.com/mishnah/n/n0d4cf29d22b8

 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)

https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e

 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c

(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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