ミシュナ『Rosh HaShanah』法理研究 第3回:安息年・ヨベルの年の起算点と樹木(orlah、revai)の動的期間計算(1章1節③)
本稿は口伝律法ミシュナ第2部『Moed(モエド)』に属する『Rosh HaShanah(ローシュ・ハシャナー)』の第3回目の解説である。
今回は『Rosh HaShanah』第1章1節の続きを取り上げ、レビ記25章4節・申命記11章12節の「年」の類推解釈(Gezera Shava:ゲゼラ・シャヴァ)による安息年(shemittah)及びヨベルの年の起算点を解説。さらに樹木のオルラー(orlah)からレヴァイ(revai)へ移行するタイミングについて、「45日」の動的期間計算システムを解説する。
前回の振り返り:三大祭りの誓願遅延禁止法理とmaaser beheimahの基準日
前回は『Rosh HaShanah』第1章1節の続きについて、誓願期間と三大祭りの関係、家畜の十分の一税、そしてティシュレの1日の意義を中心に解説した。
主な内容は以下の通りである。
【1】ニサンの1日:祭日と誓願の法理
ニサンの1日は「祭日の為の日」と定義されている。これに関連して、神に立てた誓願を果たす期限について、以下の法理が示されている。
①誓願遅延の禁止
誓願を立ててから三大祭り(除酵祭[Pesah]、七週祭[Shavuot]、仮庵祭[Succot])が、この順序で過ぎるまでに果たさなければならないとされている。
②猶予期間の変動
誓願を立てる時期により、期限までの長さに差が出る。ニサンの直前ならSuccotまでの約半年であるが、ティシュレの直前(仮庵祭の前)に誓った場合は、次のSuccotまで約1年の猶予が生じることになる。
ただしRambamやRavは「順序にかかわらず3つの祭りが過ぎれば違反」とする説を支持している。
③その他の基準
タルムードのゲマラによれば、ニサンの1日は「閏年の決定期限」、「使用する神殿税(銀半シェケル)の切り替え」「期間指定のない家屋賃貸の満了日」の基準にもなる。
【2】エルールの1日:家畜の十分の一税(maaser beheimah:マアセル・ベヘマー)
エルールの1日は、maaser beheimahを計算するための「年度」の区切りである。
①年度の分離
前年度に生まれた家畜と新年度に生まれた家畜を混ぜて10頭数えることは出来ない。
②生物学的理由
羊や牛の繁殖サイクルから、多くの出産が完了するアヴの月(第5の月)の直後であるエルールが、年度の区切りとして適切であると考えられた。
③学説の対立
「エルールの1日」とするTanna Kammaに対し、ラビ・エルアザルらは「ティシュレの1日」を主張しており、権威者の間でも見解が分かれている。
【3】ティシュレの1日:年数と神の裁き
①異邦人の王の治世
ユダヤ人の王はニサンを新年とするが、異邦人の王の治世年数はティシュレを基準に数えられる(ネヘミヤ記の記述から立証される)。
②世界創造紀元
マイモニデスによれば、法的文書で「世界創造から〇〇年」と記す際の年数は、この日に加算される。
③神の裁き
この日は神が世界を新しく創造し、人々の今後の1年の運命を書き換える日としての霊的な意味を持っている。
以上の通り、前回の記事においては、律法とは確定した規則の集合体ではなく、結論の出ていない議論や異なる意見の総体そのものが「律法的な遺産」であるという特質が表れている。
これらの内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。
◉ミシュナ『Rosh HaShanah』法理研究 第2回:三大祭りの誓願遅延禁止法理とmaaser beheimahの基準日(1章1節②)
https://note.com/mishnah/n/nfca28f5edd1c
安息年(shemittah)の起算点としてのティシュレの1日
今回は「Rosh HaShanah」1章1節の続きである。まずは本文を引用する。
ティシュレの1日は年数を数える為であり、安息年の為であり、・・
「年数を数える為」の部分については、前回既に解説した。ここでは安息年について、ティシュレの1日が基準になることについて述べる。
安息年についてはレビ記25章1~7節に書かれている。この内、4節には次のように書かれている。
七年目には全き安息を土地に与えねばならない。
原文を直訳すると「七年目」の箇所は「7番目の年」である。 安息年がいつから開始するのか、タルムードのGemaraでは、次の箇所を参照している。
それは、あなたの神、主が御心にかけ、あなたの神、主が年の初めから年の終わりまで、常に目を注いでおられる土地である。
トーラを解釈する際の一つの方法は、同じ単語が使われている場合、それぞれの単語は互いに意味を補完し合うというものである。
土地について述べているこの箇所(申命記11章)では、前後の文脈で「雨(秋の恵みの雨)のサイクル」が語られているため、「年」の開始は秋の月であるティシュレの1日を指しているとされる。
そこでレビ記25章4節の「年」もティシュレに始まる1年であると解釈されている。
次の理由も提示されている。申命記11章の「年の初めから」の「初めから」のヘブライ語の表記は次の通りである。
מרשית
他方で通常「初めから」を言いたい場合、次のように表記する。
מראשית
すなわち、申命記11章の「(年の)初めから」の表現は、通常のヘブライ語の用法ではない。トーラを解釈する際の重要な1つの原則は、通常の語法と異なる仕方で単語が表記されている場合、そこに隠された意味があるという事である。
申命記11章12節の「(年の)初めから」の表記は通常の表記の仕方ではないのだが、この変わった仕方で表記されたアルファベットを並べ替えると、次のようになる。
מתשרי
これは「ティシュレから」を意味する。以上を踏まえて申命記11章12節を解釈すると、「それは、あなたの神、主が御心にかけ、あなたの神、主が、ティシュレから始まる年の初めから年の終わりまで、常に目を注いでおられる土地である」という意味になる。ここで再び、レビ記25章4節を引用する。
七年目には全き安息を土地に与えねばならない。
上に述べたように、原文を直訳すると「七年目」の箇所は「7番目の年」である。安息年について語っているこの箇所の「年」もティシュレに始まると解釈される。
ヨベルの年の法理構造とハラハーの帰結
先に進む。
ティシュレの1日は年数を数える為であり、安息年の為であり、ヨベルの年の為であり、・・・
次は「ヨベルの年の開始がティシュレの1日である」という点についてである。
レビ記25章8~10節では、安息年の7年を7回数え、50年目を「ヨベルの年」として宣言するように定められている。ヨベルの年には安息年の全ての掟が適用されるが、それに加えて、ユダヤ人奴隷の解放及び土地の返還が行われる。
ただしマイモニデス(Maimonides)によると、ヨベルの年には借金帳消しの掟は適用されない。
さて、ヨベルの年はミシュナの見解ではティシュレの1日に開始する。貧しい人々はティシュレの1日に働くことをやめ、10日間宴を開いて祝う。ティシュレの10日はYom Kippur(ヨム・キップール)であり、この日は断食しなくてはならない。
この見解はラビ・イシュマエル(Rabbi Yishmael)のものであると言われている。他のラビたちによると、ヨベルの年はYom Kippurに始まるが、ハラハーではティシュレの1日であるとされている。
樹木のorlah、revai法理における「45日」の動的期間計算
続きである。
ティシュレの1日は年数を数える為であり、安息年の為であり、ヨベルの年の為であり、木を植える為であり、・・
次は「木を植える時の基準日がティシュレの1日になる」ことについてである。これに関しては、トーラには次のように書かれている。
23あなたたちが入ろうとしている土地で、果樹を植えるときは、その実は無割礼のものと見なさねばならない。それは三年の間、無割礼のものであるから、それを食べてはならない。 24四年目にすべての実は聖なるものとなり、主への賛美の献げ物となる。
植樹したら最初の3年間は、そこに実る果実から如何なる利益も得てはならない。この3年間の果実はorlahと呼ばれる。4年目の果実はrevaiと呼ばれ、maaser sheniの規定が基本的に準用される。
revaiはエルサレムに持って行き、そこで食べるか、もしくは換金した硬貨を使ってエルサレムで飲み食いする。
orlahとrevaiについては、過去の記事で詳しく解説している。不確かな方は下のリンクから確認して欲しい。
◉maaser sheni(マアセル・シェニ:第2の10分の1)とorlah(オルラー)の法理:ミシュナ『Maaser Sheni』及び『Orlah』に基づく聖性と換金規定
https://note.com/mishnah/n/nd25baa5802b0
本節のミシュナによると、orlah、revaiの基準になるのはティシュレの1日になる。しかしこれについては2つの場合に分けて理解する必要がある。
①【ティシュレの1日の45日以上前に木を植えた場合】
もしティシュレの1日の45日以上前に木を植えた場合、その年のエルール(第6月)の最終日をもって「最初の1年」が終了したと見なされる。翌日のティシュレの1日から「2年目」が始まる。
この場合、2年後のティシュレの1日に4年目が始まると思われる。この時、実際には丸4年は経過しておらず、最も短い場合、3年と50日にも満たない。
後の回で扱う通り、樹木の新年はシェヴァト(第11の月)の15日に始まる。3年少し前に植えて植栽した木は、この時には律法上樹木になっている。
そこで「4年目」の木はシェヴァトの15日まで新年を迎えず、この日にorlahからrevaiに地位が変わる。果実は翌年のシェヴァトの15日までrevaiになる。
②【ティシュレの1日まで45日未満の時に木を植えた場合】
逆に植え付けが遅かった場合、すなわちティシュレの1日まで45日に満たない期間(例:直前の数日間)に植えた場合、その期間を「1年」として数えることは出来ない。ティシュレの1日から丸3年間を数えなくてはならない。
この場合の4年目の開始日については、バアル・ハマオル(Baal HaMaor)やラン(Ran)はシェヴァトの15日からであるとする。すなわち①と同じタイミングである。しかしマイモニデス(Maimonides)はティシュレの1日にrevaiになるとする。
今回の内容は以上である。
(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)
シリーズ目次は以下からご覧になれます。
◉【シリーズ目次】ミシュナ『Rosh HaShanah』法理研究
https://note.com/mishnah/n/nfbeb416fd084
本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。
◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)
https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e
全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。
◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス
https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c
(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)
◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次
