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ミシュナ『Me'ilah』研究 第8回:『Me'ilah』3章1節における『餓死させられる5つのchatat』の法理構造

*本稿は口伝律法ミシュナ第5部『Kodashim(コダシーム)』に属する『Me'ilah』の第8回目の解説である。

 今回は『Me'ilah(メイラー)』第3章1節を取り上げ、「餓死させられる5つのchatat(贖罪の献げ物)」のステータスを追う。「Halachah LeMoshe MiSinai(シナイ山におけるモーセの伝承)」に基づく5つの事例(chatatの子、chatatのtemura、所有者が死んだchatat、年齢超過、傷による不適格)について、いけにえとしての適格性とme'ilah(聖なる物の私的な使用)の有責性判定を解説する。

 次に、ミシュナ本文に明文化されていない「1歳未満・無傷で発見された元のchatat」のハラハー(ユダヤ法)的プロセスを検証。その後、ミシュナ本文の記述へと回帰し、代わりのいけにえによる贖いを完了した後、元のchatatに対するtemuraの絶対的無効性、元のchatatのトーラの次元におけるme'ilahの免責・ラビによる「それから利益を得ることの禁止」規定の二層構造を解明する。


前回の振り返り:matir(許可するもの)の法理とme'ilahの適用境界


 前回はミシュナ『Me'ilah』第2章9節を取り上げ、祭壇で全て焼き、祭司の取り分がない献げ物におけるme'ilahの適用範囲と、不適切な意図(piggul)や汚れ(tamei)などの有責性が生じる「matir(マティル:許可するもの)」の法理構造について解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】me'ilahが適用される対象と聖別

 以下の6つの項目は、口頭で聖別を宣言した時点からme'ilahの対象となり、奉仕の器(kli shareit)に入れられることで「本質的な聖性(Kedushat HaGuf)」を帯びる。

①kometz(穀物の献げ物の一掴み分)

②levonah(乳香)

③ketoret(香)

④祭司のminchah、大祭司のminchah

⑤nesachimのminchah(ぶどう酒を伴う穀物の献げ物)

 これらのものは、kli shareitで聖別された後は、tevul yomやmechussar kippurimとの接触や、時間の経過(linah)によって不適格(失格)になる法的性質を持つ。

【2】me'ilahの適用境界と空間的例外

 上記の6つは祭司が食べる部分がないため、祭壇で焼かれ、その灰が最終的な目的地に届くまでme'ilahの掟が持続する。

①原則

 エルサレムの城壁外にある「灰の場所(beit hadeshen)」に運ばれるまでme'ilahの対象となる。

②ketoret(香)の例外

 香の灰は城壁外ではなく、祭壇スロープの東の場所(terumat hadeshenを置く場所)に置かれた時点で、全ての掟が完了したと見なされ、me'ilahから解放される。

【3】「matir(マティル:許可するもの)」の法理と有責性の閾値

 ミシュナは、piggul(不適切な意図)、nosar(時間超過の残り物)、tamei(汚れ)の責任がいつ発生するかについて、一般的なルールを提示している。

①matir(マティル:許可するもの)がある場合

 血の振りかけ(zerikah)のように、その奉仕によって祭司が食べられるようになる工程のある場合を指す。

 この場合、matirの奉仕が完了するまでは、piggul、nosar、tameiの責任は問われない。

②matirがない場合

 全てが焼かれ、祭司の食用が許可される工程がないため、piggulはそもそも適用されない。

 一方で、kli shareitで聖別された瞬間から、nosarやtameiの有責性が生じる。

 以上のように前回の記事では、第2章のまとめとして、matirの有無が、いけにえの法的ステータスの変化に与える法理を整理した。

 これらの内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Me'ilah』研究 第7回:『Me'ilah』2章9節における、聖なる献げ物の Kedushat HaGuf(本質的聖性)獲得から「マティル(許可するもの)」の法理構造、および灰の場所(beit hadeshen)に到るme'ilahの適用境界とpiggul・nosar・tameiの有責性閾値

https://note.com/mishnah/n/nd2a9d89b2889


ミシュナ『Me'ilah』3章1節:餓死に処される5つのchatat(贖罪の献げ物)


 今回はその続きである。口伝律法ミシュナ「Me'ilah」3章1節を扱う。この箇所は「Temura」についてのシリーズでも扱ったが、me'ilahを学ぶ上でも重要な箇所なので、復習を兼ねてここでも取り上げる。

 chatatの子、chatatのtemura、所有者が死んだchatatは餓死させられる。その年が過ぎたもの、いなくなったが、傷を負って見付かったものについて、もし所有者が彼らの罪を贖っているなら、それらは餓死させられる。

(Me'ilah 3:1)

 このミシュナでは「餓死するまで放置される5つのchatat」について扱っている。これらは、chatatとしての聖性を持ちながら祭壇で献げることができず、餓死するまで囲いの中で放置される5つの事例である。

 この掟は「シナイ山におけるモーセの伝承(Halachah LeMoshe MiSinai:ハラハー・レ・モシェ・ミシナイ」に由来する。

『Temura』4章における重複記述と『Me'ilah』における法理的意図の差異


 本節のミシュナがこの掟を引用しているのは、これら5つのchatatにおける「me'ilah(聖なる物の私的な使用)」の状態を確定させる為である。

 このミシュナ全体は、すでに「Temura」4章でも一言一句同じ内容で述べられており、過去の記事でも詳しく解説した。

◉ミシュナ『Temura(テムラー)』の法理 第9回:贖罪の献げ物(chatat)の年齢制限と、紛失した家畜・硬貨のハラハー(4章1節〜2節)

https://note.com/mishnah/n/nb136b2d9e752

 「Temura」の4章でこのミシュナが教えられているのは、temuraの法のためであり、ここで再び教えられているのはme'ilahの法の為である。従って、これら2つのミシュナは重複しているが、無駄な繰り返しではない。それぞれのミシュナは、その篇の主要テーマに関連して、これら5つのchatatの法理を教えるために置かれている。

 以上を前提に本節のミシュナを1つずつ確認する。餓死させられなくてはならないchatatについての掟である。

前半3事例のハラハー(halachah):聖別後の妊娠・temura違反・所有者死亡


 最初は「chatatの子」についてである。家畜がchatatとして聖別された後に身ごもった場合、その子は自動的に母親のchatatとしての聖性を引き継ぐことになる。

 しかし、その子自体は「贖罪の目的」のために聖別されたわけではないため、決してchatatとして献げることは出来ない。chatatは、特定の罪を贖うために聖別された時にのみ、贖いの機能を果たすからである。

 chatatはolahやshelamimとは異なり、自発的に献げることは出来ず、義務としてのみ献げることが出来る。従って、その子は餓死するまで放置されなければならない。

 ただし、すでに妊娠している家畜をchatatとして聖別した場合は事情が異なる。この場合、胎児は母親の聖性の結果としてではなく、独自の資格で聖別されたと見なされるからである。

 次は「temuraの子」であるが、temuraとは既に聖別されたいけにえの代わりに、他の家畜を充てようとすることである。トーラはレビ記27章でtemuraを禁じており、もし行った場合は元の献げ物とtemuraの両方が聖別されると規定している。

 chatatのtemuraは、chatatとして聖別されるが、トーラの禁止命令を犯して聖別したものであるため、chatatとして献げることは出来ない。

 違反行為を通して聖別されたものを、罪の贖いに用いることは出来ないからである。餓死させられる。

 次は「所有者が死亡したchatat」についてである。本人が亡くなった後の献げ物のほとんどは、基本的に相続人によって献げられる。しかし相続人は被相続人のchatatを献げることは出来ない。

 chatatの目的は所有者の罪を贖うことであり、所有者の死後は、死そのものによって贖いがなされたので、もはや贖う必要がなくなっている。

 Halachah LeMoshe MiSinai(ハラハー・レ・モシェ・ミシナイ)は、以上の「chatatの子」、「chatatのtemura」、「所有者が死んだchatat」は、餓死するまで、囲いの中で水も食べ物も与えずに、放置されなければならないと教えている。

 もしもHalachah LeMoshe MiSinaiがこのように教えていないなら、これらのchatatは傷が生じるまで放牧された後、売却されてその代金が共同体の為のolahに充てられると解される。

 さて、以上の「chatatの子」、「chatatのtemura」、「所有者が死んだchatat」は常に餓死するまで放置されるものとして一括りにされている。

後半2事例のハラハー:行方不明期間中の年齢超過と傷の発生


 残りの2つの事例について、つまり「その年が過ぎたもの」(chatatとして用いることの出来る規定の年齢を過ぎたもの)、「傷を負って見付かったもの(欠陥がある状態で見つかったもの)」については、ミシュナ本文からは分かりにくい。

 単にchatatの規定の年齢(1歳)が過ぎたもの、あるいは傷を負っているというだけでは、通常は餓死させられないと解釈されている。それらは売却され、その代金が会衆のためのolahの基金に充てられる。

 ミシュナ本文には「その年が過ぎたもの、いなくなったが、傷を負って見付かったもの」と書かれている。真ん中の「いなくなった(行方不明になった)」は「規定の年齢が過ぎた」と「傷を負った」の両方にかかっていると解釈されている。そこで、この箇所は次の2つの場合を言っている。

①規定の年齢である1歳を経過し、その後で行方不明になり、発見されたchatat。

②1歳に満たない無傷の状態であったものが行方不明になり、その後傷を負って発見されたchatat。

 これら①や②のchatatが行方不明である間、所有者は自身の罪を贖うために代わりの献げ物を指定する必要がある。

 たとえ迷子になっていた元のいけにえが後で見付かったとしても、年齢や傷のために献げることは出来ない。

 持ち主には「元のいけにえを売却して、その代金で代わりの家畜を買う」か、「別の資金で代わりの家畜を買う」かの選択肢もある。

 ミシュナで扱っているのは、行方不明中に聖別した代わりのいけにえが献げられた後の、元のいけにえに対して適用される掟である。

 つまり、①、②は必ずしも餓死させられるのではない。2番目のchatatを祭壇に献げたなら、餓死させられる。Halachah LeMoshe MiSinaiは、そのように教えられている。

ミシュナに規定なき例外事例とme'ilah有責性の解除


 では、ミシュナに規定されていない以下の場合はどうなるのだろうか?つまり「もしも1歳未満であり、無傷のchatatが行方不明になり、そこで代わりの家畜をchatatとした後、1歳未満で無傷の元のchatatが見付かった場合」である。

 説明の便宜の為、元のchatatをXと呼ぶ。

 この場合、元のchatat(X)も、2番目に聖別したchatatもどちらも献げ物としての適格を持つ。もしも2番目をいけにえとして用いるなら、Xは傷を負うまで放牧し、傷を負った後に売却されると解される。

 代価は、共同体のolahの費用などに用いられる。

贖罪完了後の元のchatatに対するtemura(置換)の絶対的無効


 話をミシュナ本文に戻す。続きには次のように書かれている。

 それはtemuraをしないし、それから利益を得てはならないが、me'ilahについて有責ではない。

(Me'ilah 3:1)

 「それ」が何を指しているのか分かりにくいが、「元のchatat」を指している。ここでも説明の便宜の為、「元のchatat」をXとする。

 状況としては、2番目のchatatが祭壇で献げられた後、元のchatat(X)のtemuraを作ろうとした場合である。

 この場合、ミシュナには「(Xは)temuraをしない」と規定されている。仮に「Xの代わりにAをchatatに用いる」と宣言したとしても、無効という事である。Aはtemuraにならない。

 次に「それから利益を得てはならないが、me'ilahについて有責ではない」と書かれている。

 所有者が2番目のchatatによって罪の贖いを済ませた後に、規定の年齢を過ぎた、あるいは傷のある「元のchatat(X)」から何らかの便益を得た者は、me'ilahについて有責ではないことを言っている。既に罪の贖いを得ているから。

 me'ilahの対象でなくなったのだから、それによって個人の利益を得ても、例えば燃やしてその熱を利用しても、聖書の次元では問題ではない。しかしラビたちはそれを禁止した。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Me'ilah』法理研究

https://note.com/mishnah/n/n8ab1e0588261


 全記事の目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)

https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e


◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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